あなたは「成長ホルモン」の作用をご存知でしょうか。
- 成長ホルモンとは
- その役割と作用
- 空腹時による活性化
わたしは、食事アドバイスやファスティング指導をしている栄養士です。どんなものを食べるかというプラスの健康と、どんなものを食べないかというマイナスの健康、どちらも大切だと考えています。
ファスティング(断食)をすると成長ホルモンの分泌が促進されることが知られていますが、本記事では「成長ホルモン」の作用や分泌されるメカニズムについてご紹介していきます。
「成長ホルモン」とは
「ホルモン」とは、体の中でつくられている物質です。体の様々な機能をコントロールするという大切な役割を担っています。
人間には体内に100種以上のホルモンがあるといわれ、それぞれが決まった役割を果たすことで、私たちの体は正常に保たれているのです。
成長ホルモンは脳下垂体(のうかすいたい)と呼ばれる内分泌器官から分泌されるホルモンの一つで、「身長を伸ばすホルモン」としても知られています。
191個のアミノ酸からなるタンパク質でできています。骨や筋肉、各組織の成長を促進し身体を作ったり、健康的な身体を維持したりするのに必要なホルモンです。
「成長ホルモン」の働き
成長ホルモンの主な働きを2つをご紹介します。
- 「身体を作る」
- 「代謝を調整」
①「身体を作る」
骨や筋肉、心臓やその他全身の臓器などの細胞において、タンパク合成を促進し、細胞増殖を促す働きがあります。
この働きことをアナボリック(同化)作用と呼び、この働きによって骨や筋肉、各器官などが発達し保持されます。
②「代謝を調整」
糖質の代謝や脂質の代謝を調節して、身体のエネルギー源となる糖質の量や、身体に蓄える脂肪の量のバランスを保ちます。
また、身体の老化を促進させる糖化現象を防ぐ働きも併せ持ちます。これらの働きは「抗インスリン作用」と呼ばれます。
※「糖化現象」とは、必要以上に摂取され蓄積された余分な糖質により、細胞に悪影響を与える現象のことです。
子どもだけでなく大人も必要
わたしたちが生きていくためには、体内でエネルギーをつくることが欠かせません。
成長ホルモンの重要な役割は、体にある物質をエネルギーとして使えるような物質に変えていく「代謝」という働きです。
つまり成長ホルモンは、子どもはもちろんのこと、成長期を過ぎた大人にとっても「健康的な身体」や「健康的な精神」を保持していくために必要なホルモンなのです。
《成長ホルモンの働き》
子ども | 代謝を促す、骨をのばす、筋肉などの発達 |
大人~高齢者 | 代謝を促す |
身体への影響
成長ホルモンの働きによって、身体に与える影響は次の通りです。
- 骨や筋肉が成長、発達、保持する
- 肝臓など全身の臓器や器官が成長、発達する
- 健康な皮膚や毛髪を作る
- 脂質の代謝を促し、脂肪がたまらないようにする
- 糖代謝の正常な状態を維持し、血糖値を正常に保つ
- 血圧を下げる
- 傷の治りを促す
- 生殖機能に影響を及ぼす
- 記憶力を高める
- 精神的な安定を保つ、物事に取り組む意欲を高める
「成長ホルモン」の分泌
成長ホルモンは、脳から出た指令を受けて下垂体から分泌されます。そして、肝臓や筋肉、脂肪などのさまざまな臓器で行われている代謝を促進します。
肝臓では、成長ホルモンを仲介するIGF-I(ソマトメジン-Cとも呼ばれます)という物質が作られています。
このIGF-Iという物質は、成長ホルモンの量を調べるときの大切な指標となります。
分泌されるタイミング
成長ホルモンが分泌される主なタイミングは3つあります。
- 睡眠中
- 運動中
- 空腹時
① 睡眠中
成長ホルモンが最も多く分泌されるタイミングは「睡眠中」です。特に、寝入ってから約30〜60分後は最も多く成長ホルモンが分泌されるタイミングだそうです。
成長ホルモンの分泌を最大限にするためには、毎日決まった睡眠のリズムで眠ることが重要です。
睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠が交互に訪れるサイクルがあります。このサイクルが崩れてしまうと、成長ホルモンの分泌を妨げることになります。
就寝1〜2時間前に入浴し、身体を温めるとよいです。温まった深部体温が就寝時に下がってくることで、スムーズに眠りにつくことができ、深い眠りにつながりやすくなります。
また、就寝前2~3時間までには夕食を済ませておくことも大切です。
わたしは、ファスティング指導をしているのですが、夜ファスティングをすることで睡眠の質が上がったという生徒さんもいました。
《参考》【初心者:3日間ファスティング事例】スケジュール・やり方・効果
② 運動中
運動によって蓄積される筋肉の疲労を軽減させるために、乳酸が生成されます。この乳酸が脳下垂体を刺激し、成長ホルモンの分泌を促します。
そのため、乳酸を発生させやすい「スロートレーニング」が、成長ホルモンの分泌には効果的です。
スロートレーニングとは、軽い負荷で、ゆっくりかつ持続的に筋肉を動かすことにより、激しいトレーニングをした時同様に乳酸を分泌させるトレーニングメニューのことです。
成長ホルモンの分泌量をアップさせるには、より多くの乳酸が分泌される、太ももの前側にある大腿四頭筋など、太もも周辺の大きい筋肉を中心にトレーニングするとよいでしょう。
③ 空腹時
空腹の時間を作ることは、成長ホルモンの分泌を促す効果があります。他にも、代謝を高める、筋肉量を増やす、コラーゲンを作る、脂肪の分解を促進するなどの働きもあります。
空腹を感じると、食欲を増進させる「グレリン」というホルモンが分泌されます。グレリンは成長ホルモンの分泌を促す作用があります。
空腹を感じる前に間食をすると、グレリンの分泌が妨げられて、成長ホルモンの分泌も低下します。成長ホルモンの分泌のためには、消化されるまでのあいだに食べ物を胃に入れる間食をしないことが望ましいです。
ファスティング(断食)をすると、成長ホルモンが分泌されるというのは、このためです。
《参考》【ファスティングとは】断食との違い・ダイエット&デトックス効果
また、成長ホルモンはタンパク質で構成されているため、食事でタンパク質を摂取することも大切です。
《参考》【プロテインとは】タンパク質の必要量と、ホエイ・カゼイン・ソイの比較
成長ホルモンの分泌量
成長ホルモンは思春期をピークに迎えて、20代で半分、30代で3分の1、40代で4分の1と、どんどん分泌量が減っていくと言われています。なので、筋肉・骨・髪などが衰えていきます。
一般的に40歳前後の人の成長ホルモンの分泌量は、20歳前後の人の半分程度です。
これを補うには、睡眠のリズムを整え、睡眠の質を向上させたり、運動をしたり、空腹の時間を作ることが有効です。
《参考》【要約】空腹こそ最強のクスリ:16時間断食の正しいやり方・ナッツの食べ方
分泌を妨げる生活習慣
成長ホルモンの分泌を妨げる要因は、「ストレス」や「過度な飲酒」などです。
「ストレス」
ストレスを感じると分泌量が増えるホルモン「コルチゾール」によって、成長ホルモンの分泌を妨げられます。
なので、成長ホルモンが最も分泌されるタイミングである睡眠時は、精神的にリラックスできることがベストです。
就寝時まで、ストレスを引きずりがちな人は、入浴や軽いストレッチをしたり、音楽を聴くなど、自分に合ったストレス解消法を探してみて、リラックスできるようにしたいですね。
「過度な飲酒」
飲酒によって摂取したアルコールが体内で分解されると、「アセトアルデヒド」という毒素が発生し、蓄積されます。
アセトアルデヒドには、神経を刺激し眠りを浅くする作用があるので、過度な飲酒は、成長ホルモンが最も分泌されるタイミングである睡眠の質を下げてしまいます。
体格や体質にもよりますが、日本酒なら1合、ビールら中瓶1本など、適度な飲酒量にとどめましょう。
また、お酒を飲むと脂肪の分解がストップします。お酒を飲むと、肝臓はアルコールの分解を優先的に行い、脂肪の分解はお休み状態になります。
アルコールをとると、糖新生もストップするため、血糖値が下がりやすくなります。その状態に加えて理性を司る脳もお休み状態になるため「酔っておなかが空く」感覚が強くなるのです。
その結果、アルコールや一緒に摂取した食品が脂肪としてたまりやすくなりますので注意が必要です。
《参考》【本の要約:中編】医学的に内臓脂肪を落とす方法(1年で14キロ痩せた医師が教える)
正常に分泌されない場合
成長ホルモンは、量の違いはあるものの生涯にわたって下垂体から分泌されます。しかし、何らかの原因で分泌が低下する場合や過剰に分泌される場合があります。
成長ホルモンの欠乏により、下垂体性小人症(かすいたいせいこびとしょう)といって低身長などの成長障害が生じる病気があります。
低身長の治療は、基本的に成長ホルモン補充療法(成長ホルモン注射)です。
原因不明と言われていますが、成長ホルモンが分泌される脳下垂体に異常が生じていることを原因とする説もあります。
一方で、成長ホルモンが過剰に分泌され、あごや鼻など身体の一部が肥大化するアクロメガリー(先端巨大症)という病気もあります。
脳下垂体にできた腫瘍が原因といわれています。発症した場合は、腫瘍を切除する手術を行うことが一般的です。
「成長ホルモン」とファスティング
成長ホルモンが分泌される主なタイミングは、①睡眠中、②運動中、③空腹時とお伝えしましたが、その中でもファスティングとの関係性を詳しくご紹介します。
成長ホルモンの分泌は、ファスティング(断食)をすることのメリットとして良くあげられています。
ファスティングによる成長ホルモン分泌
成長ホルモンは「若返りホルモン」とも呼ばれています。成長ホルモンの作用は、筋肉を増やす、コラーゲンの再生、髪の再生、骨を強く、脂肪を燃やす、集中力を高めるなどです。
なんと、ファスティングでは成長ホルモンの分泌を促すことができます。その流れは次のようになります。
メカニズム
ファスティングで胃が空っぽになると、胃から小腸に食べ物が流れてこないので、腸から「モチリン」という消化管ホルモンを分泌されます。
するとモチリンにより胃を収縮させ食べ物を流そうとして、おなかが「ぐーぐー」鳴ります。
流す食べ物がないと胃袋から「グレリン」というホルモンが出ます。グレリンにより、脳の下垂体に作用して「成長ホルモン」を出します。
この成長ホルモンによって、筋肉の増強、肌がきれいに、髪のコシがでてきたり、骨が丈夫になったりする効果が期待できます。
《参考》【ファスティングとは】断食との違い・ダイエット&デトックス効果
ファスティングで分泌量2倍
ファスティングを行うと成長ホルモンが多量に分泌され、筋肉や骨、血液といった脂肪以外の組織「除脂肪組織」が維持されます。
成長ホルモンは、脂肪をエネルギーとして使えるようにして、利用しやすくすることが分かっています。
成長ホルモンは断続的に分泌されるため、分泌量を計測するのが難しいが、年を重ねるごとに分泌量が減っていきます。
ファスティングは、成長ホルモンの分泌を最もよく促す方法と考えられています。5日間のファスティングで成長ホルモンの分泌量は2倍になります。
1日置きのファスティングを70日続けると、体重は6%減少し、体脂肪は11.4%も減少しました。
体に悪いLDLコレステロールと中性脂肪は大幅に改善し、筋肉組織を維持するために成長ホルモンの分泌量も増えました。
《参考》【本の要約:後編】トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ
効率的に脂肪燃焼と筋肉増強
ファスティングは「成長ホルモン」細胞の成長と再生を促します。とある研究によると、連続で4日間のファスティングをした際、基礎代謝量は約10%増えたそうです。
その理由は、ファスティングをするとインスリンが減って、インスリンと逆の働きをするホルモンが増えるからです。
インスリンは、糖や体脂肪にエネルギーを「蓄えるモード」のホルモンです。その逆のホルモンとは、「燃やすモード」のホルモンです。
具体的には、ノルアドレナリン、成長ホルモン、コルチゾールなどです。ノルアドレナリンが増えると基礎代謝量が増えることが分かっています。
ファスティング中にトレーニングをすると、インスリン値は下がるが、ノルアドレナリンや成長ホルモンの分泌量は増えます。なので、いつもよりキツイ運動もこなせるとも言われます。
しかし、ファスティング中は激しい運動は控えて、様子を見ながら普段の半分程度の運動にしておくようにしましょう。
なお、運動の後に食事を摂っても成長ホルモンの値は高いままなので筋肉を素早く修復してくれます。
人間の体は朝4時ごろに、ホルモンが分泌されてグルコースが血中に放出されています。
つまり、朝ごはんを食べずに運動しても問題ないとしています。むしろ効率的に脂肪燃焼と筋肉増強が狙えるといえます。
《参考》【要約】世界最強のファスティング:やり方・効果、カロリー制限のウソ
【まとめ】成長ホルモン
成長ホルモンは、子どもの成長期から、大人の健康維持も支える重要なホルモンです。
そんな成長ホルモンの分泌を促進するには、良質な睡眠、適度な運動といった生活習慣が大切です。また生活のリズムも整えることができるといいでしょう。
さらには、空腹の時間をつくることが成長ホルモンの分泌に有効です。空腹と言ってもおなかが空いて居ても立っても居られないほどの空腹である必要はありません。
ファスティング期間にもよりますが、栄養不足になるほどの空腹時間を維持することは、筋肉を減らしてしまったり、体がアルカリ性に傾いてしまい骨や歯を溶かしてしまったりする危険があります。
砂糖や保存料が使われていないホンモノの酵素ドリンクを上手に取り入れながらファスティングをすることをおすすめいたします。
まずは、気まぐれ断食や16時間断食などの初心者向けのファスティング(断食)から挑戦してみてもいいと思います。
《参考》【本の要約:前編】心と身体のリセットに効く「気まぐれ断食」
《参考》【要約】空腹こそ最強のクスリ:16時間断食の正しいやり方・ナッツの食べ方
数日間行う本格的なファスティングは異次元のデトックス感があって、心も体もデトックスされます。ちなみに、わたしは10日間の断食に挑戦したことがあります。
《参考》【10日ファスティング体験談】-4.7kg!スケジュール・やり方
わたしの生徒さんが初めてのファスティングに挑戦した事例もあるので、よければ参考にご覧ください。