最近「熊本県産アサリ」の産地偽装問題が話題になっているのをご存知でしょうか?
- 熊本県産のアサリは中国産だったのか?
- 産地偽装による影響は?アサリの価格に変化は?
- 日付の改ざんとは?
わたしは、オーガニック食品やオーガニックコスメが好きな栄養士です。本記事では、「熊本県産のアサリの産地偽装問題」についてご紹介していきます。また、今スーパーなどの小売店では何産のアサリが販売されいているか調査しました。
ここ数日間、熊本県産や中国産のアサリに関連する新しい情報が入ってきます。その都度、記事をアップデートしております。
2022/2/12時点で確認した、テレビ情報も追記しています。
2022/3/20時点で確認した、法改正の情報も追記しています。
2022/4/6時点で確認した、熊本県がアサリ産地偽装の根絶や天然アサリの資源回復を目的とする条例案を発表した情報も追記しています。
【熊本県産アサリ】農林水産省の調査結果
どんなことがニュースになっているか簡単にまとめます。
2022年2月1日に農林水産省は、「広域小売店におけるあさりの産地表示の実態に関する調査結果」を発表しました。
アサリに収穫量と販売数
2021年10~12月までの3か月間、全国の広域小売店1005店舗で産地表示の調査をしました。
全国で販売されたアサリは3か月間で推計3138トン、うち熊本県産と表示されたアサリは2485トンです。全国のアサリの約8割が熊本県産という結果なりました。
一方、外国産は「中国産」と表示されたアサリはなく、「韓国産」の0.9%しかありませんでした。
《全国で販売されたアサリの産地内訳》
熊本県産と表示されたアサリ | 約 2485トン(全体の約79.1%) |
外国産と表示されたアサリ | 約 28トン(全体の約0.9%) |
その他の産地のアサリ | 約 625トン(全体の約20%) |
2021年10~12月の3か月間の合計 | 推計 3138トン |
熊本県産と北海道・愛知県の比較
北海道産や愛知県産と比べても、熊本県産アサリは収穫量と販売量がおかしいことが分かります。
熊本県産 | 北海道産 | 愛知県産 | |
年間漁獲量(2019年) | 21トン | 1500トン | 1600トン |
3か月の推計販売量(2021年10~12月) | 2485トン | 265トン | 183トン |
割合(3か月の推計販売量/年間漁獲量) | 118% | 17.7% | 11.6% |
おおまかに、年間漁獲量の4分の1程度が、3か月の推計販売量になるはずと想像できます。つまり15%前後であれば、妥当といえます。
そんな状況で熊本県産アサリは、年間漁獲量をこえる量のアサリがたった3か月で販売されていることになります。
【熊本県産アサリ】調査結果
全国の小売店で販売されているアサリのDNA分析をしたところ、熊本県産と販売されていた31点のうち30点は「外国産アサリが混入している可能性が高い」と判定されました。
同時に、愛知県産、北海道産、その他の国産も分析したが、外国産が混入している疑いは一切ありませんでした。
調査対象・方法 | 生鮮アサリを販売している小売店829店舗から50点を買い上げてDNA分析。 |
調査結果 | 熊本産と表示していた31点のうち、30点で「外国産が混入している可能性が高い」との判定が出た。 |
※独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)がDNA分析
3カ月間の熊本県産アサリの販売量(2485トン)が、年間の熊本県産アサリ漁獲量(21トン)の118倍と、実際の漁獲量を大幅に上回るという不思議な結果になりました。
- 「2020年に熊本県でとれたアサリ」21トン
- 「2021年10月~12月末までに熊本県産の表示で売られていた推計販売量」2485トン
1年間(2020年)で熊本県産アサリは、21トン収穫されました。3か月であれば、7トン程度になるはずです。時期によっても収穫量は変わってくると思いますが、3か月で7トンという量は、2021年10月~12月末の3か月で熊本県産の表示で売られていた推計販売量2485トンは335倍にあたります。
これは熊本県産のアサリではないアサリが混入していることは間違いないでしょう。なぜなら、こんな量のアサリは熊本では収穫されていないのですから。
熊本県産として販売されていたアサリに、中国沿岸産や朝鮮半島西岸産のアサリが混入していたとみられています。
今後の対応
産地偽装の疑いがある輸入業者や卸売事業者などに立ち入り検査し、実態把握を進めることにしました。
農林水産省は、今回の結果だけでは原産国を特定できないため、輸入業者や卸売事業者など流通ルートをさかのぼって立ち入り検査を実施して実態把握を進めるとしています。
また、熊本県は、熊本県漁業協同組合連合会と意見交換し、熊本県産活きアサリの出荷停止を要請しました。熊本県から出荷停止要請を受けた熊本県漁業協同組合連合会は、2月8日から2ヶ月程度、熊本県産活きアサリの出荷を停止することを決定しました。
なお、県内の37漁協に対しアサリ捕獲禁止の通達も出しています。
※「漁協」とは、日本の漁業協同組合(にほんのぎょぎょうきょうどうくみあい)を言います。略称は、漁協(ぎょきょう)、またはJF(ジェイエフ、Japan Fisheries cooperative の略)で、北海道では慣習的に漁組(ぎょくみ)と呼ぶことが多いそうです。
《参照》Wikipedia:漁業協同組合
【中国産アサリ】どのくらい儲かるのか
中国産アサリの2021年1年間の輸入量は、農林水産物輸出入情報によると、約2万6000トン、金額にして約48億9300万円なので、1kg当たり約188円となります。
《中国産アサリ1年間の輸入量と金額》
- 輸入量:約 2万6000トン/2021年
- 総金額:約 48億9300万円/2021年
- 価格:約 188円/1kg
《アサリの平均価格》
- 東京都中央卸売市場:649円/1kg
- 中国産アサリ:約 188円/1kg
※東京都中央卸売市場のアサリの平均価格は、2020年12月~21年12月までの13カ月間で649円。
つまり「中国産アサリ」を「国産アサリ」として卸売りすれば、1kg当たり461円の利益が出ます。産地表示を変えるだけでこれだけの利益が生まれます。
もし、10トンのアサリを偽装すれば、461万円、100トンのアサリを偽装すれば4610万円の利益が生まれます。
【韓国産アサリ】は儲かるのか
ちなみに韓国産アサリは、次のようになります。
《韓国産アサリ1年間の輸入量と金額》
- 輸入量:約 5752トン/2021年
- 総金額:約 19億6900万円/2021年
- 価格:約 342円/1kg
《アサリの平均価格》
- 東京都中央卸売市場:649円/1kg
- 中国産アサリ:約188円/1kg
- 韓国産アサリ:約342円/1kg
中国産に比べると、韓国産アサリは、1kgあたりの利益が約150円ほど少なくなります。「偽装するならば、韓国産より中国産」というのが、偽装側の考えなのかもしれません。
摘発された水産会社
農水省が摘発した熊本県の水産会社は、約40日間で約611トン偽装していたそうです。
先ほどの計算で、「中国産アサリ」を「国産アサリ」として卸売りすれば、1kg当たり約461円の利益が出ることになりました。1kg当たり400円の利益だとしても、40日間で、611トンで2億4440万円もの利益を生み出したことになります。
これを1か月であれば、約1億8330万円の利益となります。1年間、偽装を続けていたとすると21億9960万円の利益ということになります。
この業者は、摘発されたといっても「適正な表示をするように」と農水省から指導されたにすぎません。注意されただけであって、関係者が逮捕されたわけでもなく、課徴金(罰金)を徴収されることもなかったそうです。
これでは「バレるまで続けよう」という考えを誘発しないか疑問を感じます。まだ、調査中ということもあるかもしれないが、新たな偽装が繰り返されないか心配です。
《参照》日本経済新聞
《参照》DIAMODonline
【産地偽装】が行われた背景
こんなに大規模な産地偽装が行われた背景にはどのような理由があるのかをまとめてみます。
- 消費者の国産信仰
- 見た目で産地を判別することが難しい
- 中国産アサリは儲かる
① ある漁業者は「外国産では買い取ってもらえない。市場に渡る段階で偽装されているはずだ。」と話しているそうです。わたしも感じるところなのですが日本人は「国産が安全」と疑いもなく信じている人が多いように感じます。
なんらかの根拠があって、国産は安全と出た結果なら問題がないのですが、盲目的に信じるのは正しいと思えません。
② アサリなどの貝類は、専門機関でDNA判定までしないと産地判断できず、産地を偽りやすいという事情があります。もちろんバレなければ偽装して良いということを言っているのではなく、偽装を見つけ出すのが難しく、当たり前のように産地偽装に手を染めてしまうのでしょう。
③ 先ほども計算した通り、中国産アサリを国内産と偽装すれば、1kg当たり461円の利益がでます。10トンで461万円、100トンのアサリを偽装すれば4610万円が生み出されます。
このような利益が生まれてしまうことが、人を間違った道へ導くのかもしれません。
貝類の産地を決めるルール
貝類の場合、輸入された貝類を出荷されるまで保管する「蓄養」という作業があります。輸入後、長時間輸送で弱ったアサリを回復させる「立て込み」や、出荷調整のために国内で一時的に浜に置くということになります。
この場合の貝類の原産地は輸出国が産地となります。一時的に輸入したアサリを浜に放流しただけで、産地が国産となるわけではありません。
逆に中国産や韓国産のアサリであっても、熊本県内の干潟に放って育てる「畜養」の期間の方が、1日でも長ければ「熊本県産」と表記することができます。これはアサリに限らず、2カ所で育った畜産物は生育期間の長いほうを「産地」と表示できる食品表示法の規定があるからです。
今回の場合は、蓄養期間が短かったアサリを熊本県産として出荷しただけではなく、そもそも熊本すら経由せずにラベルだけを貼り替えたケースもあるというから悪質であるといえます。
輸入量・販売量から考えても一業者だけの偽装とは考えにくく、不特定多数の業者が、恒常的に偽装をしていたと考えるのが自然でしょう。
もし産地偽装アサリの多くが「畜養」だった場合
NDA判定で、熊本県産の多くのアサリが「中国産」の遺伝子の発表がありました。しかし、その中国産アサリを現地よりも長期間、熊本県で畜養していれば、「熊本県産」と表示しても問題ないということです。産地偽装にはならないのです。
熊本県の水産振興課によると、同県におけるアサリの「畜養量」の統計は存在しない、という回答だったそうです。そんな管理体制で大丈夫なのかと不安になります。
しかし、海外で生まれ育った期間よりも長く国内で育てる、「長期間の畜養」がアサリには存在しないそうです。熊本県の担当者によると、畜養自体は行われているが、「夏を越すような長期の畜養は困難で、1~2週間の短期で出荷してしまう」だそうです。
国内で育てることはまずなく、畜養=出荷調整の「仮置き」という扱いが一般的なようです。仮置きをする理由としては、輸入したアサリを一気に出荷してしまうと、値崩れを起こすこともあるからです。
「畜養」の目的は、生きたままアサリを出荷する調整のため、短期間の保管ということです。
なので、「畜養アサリ」であっても、外国産遺伝子のアサリが「熊本県産」や「国内産」と表記して販売することは出来ないはずだというロジックが生まれます。熊本県産アサリの漁獲量より、大幅に超える熊本県産アサリが販売されるはずがないということです。
理論としては、成り立つ産地偽装の指摘だが、そもそものルールや管理に疑問を感じます。この大規模な消費者への裏切りに対して、管理体制や法の整備を進めてほしいものです。
わたしたち消費者は「自分で情報を精査して、自分で判断する」ことが求められる時代に入っています。しかし、根本を覆すような情報に嘘が紛れていては、正しい判断をすることは非常に困難といえます。
《参照》東洋経済ONLINE
【中国産アサリ】危険性
中国産のアサリの危険性についてご紹介します。
農薬【プロメトリン】検出
2012年 | 活きアサリ | 上流の農地で使用されたプロメトリンが海水中に流れ込んだため |
2014年、2016年 | 活きアサリ | 近隣のナマコ養殖所で散布された除草剤による汚染 |
2014年 | 活きアサリ | 隣接したナマコ養殖所からの汚染 |
2014年 | 冷凍アサリ | 近隣農場において使用された除草剤による汚染 |
2015年 | 活きアサリ | 近隣養殖場において使用された除草剤による汚染 |
2016年 | 冷凍むき身アサリ | 現地向け製品の混入 |
2016年 | 活きアサリ | 採捕海域の管理不徹底 |
2017年 | 活きアサリ | 汚染された原料の混入 |
2017年 | 活きアサリ | 隣接養殖場で除草剤使用 |
2018年 | 活きアサリ | 雨による農薬の混入 |
2019年 | アサリ酒蒸し | 原因不明 |
2020年 | 蒸しアサリむき身 | 生育環境由来 |
【A型肝炎ウイルス】検出
中国産アサリからはA型肝炎ウイルスが検出されることがあります。
2017年【長野県】食中毒
2018年【宮崎県】食中毒
2000年以降
【A型肝炎ウイルス】とは
潜伏期間・症状
- 潜伏時間:2~7週間(平均4週間)
- 症状:下痢、発熱(最初38℃以上の熱が3~4日続く)、けん怠感(だるい感じ)、吐き気・おう吐、黄疸、肝腫大など
予防方法
- 用便後、調理の前、食事の前に十分な手洗いと消毒を行う。
- A型肝炎の常在地域となっている国や地域では、生水を飲まない。また、生水でつくった氷やアイスキャンデー等にも注意する。
- よく加熱した食品を食べる。
海外旅行の際、地域よってはおなかを壊してしまうので、「現地の水は飲まない」「氷も抜きでドリンクを頼もう」ということが言われていますので同じ対応ですね。
また、85℃・1分以上の加熱で不活化されるので、きちんと加熱調理された料理なら安全です。ただ、網焼きだとか自身で焼いたりする場合は、生焼けの可能性があるので注意が必要です。
その後に起きた関連する話題
熊本県産アサリの産地偽装問題が発覚した2022年2月1日から、10日経ちました。本日、2月11日の時点での関連する話題についてもご紹介していきます。
【熊本県産食材】風評被害
今回の事件によって、アサリ以外の熊本県産食材に対しての風評被害が起こっています。
たとえば、純・熊本県産の天然のハマグリなのに、売れなくなっているそうです。アサリやハマグリなどを扱う川口漁協では、熊本県が県産天然活(い)きアサリの出荷停止方針を発表した後、ハマグリが大量に返品される事態が起きました。
他にも、有明海産のシバエビの取引価格も下落するなど、様々な取引に影響を及ぼしています。
これに対して、蒲島郁夫熊本県知事は刑事告訴も視野に入れた厳しい対応を明言しています。農林水産省と消費者庁に対して産地偽装対策の緊急要望を行うと発表しました。
産地偽装に加えて、日付の改ざんまで発覚したので、熊本県産の水産物に対する信用は一気に失われました。この信用を取り戻すのは、難しいでしょう。根本から心を入れ替えて、ルール・体制を見直してほしいです。
偽装問題に関わっていない、熊本県産の商品を扱う企業が気の毒です。
【日付改ざん】ふるさと納税の返礼品
2月9日のニュースです。ふるさと納税の返礼品として、熊本県産アサリの加工品を納めている業者が、産地証明書の日付を改ざんしていたことが分かりました。
一連の熊本県産アサリの産地偽装問題を受けて、熊本・玉名市は、ふるさと納税の返礼品として、アサリの加工品3点を納めている、市内の加工業者に聞き取りを実施しました。
その結果、「平成22年」のものを「令和3年」と改ざんしていたことが発覚しました。平成22年は2010年、10年も前です。日付の改ざんが、10年間も行われてきたということでしょうか。
熊本・玉名市の聞き取りに対して、この業者は、日付の改ざんは認めたものの、「アサリは地元の漁師から直接買い取った」として、産地の偽装については否定したそうです。
何を信じて何を疑えば良いのか、消費者の判断が難しい状態になっています。
《参照》Yahoo!ニュース
2022/2【テレビ】サンデー・ジャポンの情報
テレビ番組の「サンデー・ジャポン」で、熊本県産アサリ産地偽装の問題について取り上げていたので、その内容を一部ご紹介します。
JNNは3年に渡りこの問題を取り上げてきたそうです。今回、下記の人たちへインタビューしたコメントが公開されました。
- 【熊本県】業者
- 【熊本県】スーパーの店長
- 【東京都】熊本県産のアサリを提供する飲食店の店長
- 【熊本県】現場付近で働く、元・熊本県産アサリ漁師の声
【熊本県】業者の声
「偽装しないとアサリが売れない」「中国で買っても、結局(日本の)浜にいれてお客さんに出すときに日本産になる」
偽装しないと売れないという発言を見る限り、当たり前のように偽装している様子がうかがえますね。関係業者もみんなやっているから、当たり前になりすぎて、罪悪感も感じないほどの常習的な状態になっていたのかもしれません。残念です。
【熊本県】スーパーの店長の声
インタビュー動画は出ませんでしたが、電話で取材した内容だけが発表されました。
騒動以降、「中国産」となっているラベルのアサリもほとんど売れないので、現在は販売をやめてしまったそうです。
【東京都】熊本県産のアサリを提供する飲食店の店長の声
熊本県産のアサリを提供する、飲食店の店長さんのコメントは以下の通りです。
「初め聞いたときはビックリした」「産地っていうのは、結構お客様も敏感なところではあるので…」
大幅なメニューの修正を迫られ、3分の1のメニューを修正したそうです。
熊本県産アサリは、2か月間は出荷停止しているので仕入れられないですし、メニューを変える必要があるのでしょう。もし他の産地のアサリを仕入れるにしても、価格や味に合わせてレシピや料金を変える必要が出てくるなど手間が増えそうですね。
【熊本県】現場付近で働く、元・熊本県産アサリ漁師の声
「昔は(熊本県産アサリが)100kgくらい普通に獲れてたんだよね」「軽トラ(荷台)にも、いっぱいに載るくらい積んでた」
熊本産ブランドへの影響についてどう思う?という質問に対して、次のようにコメントしています。
「それが崩されるのは、嫌な気持ちではあるけれども、、九州豪雨があったとき、山の土が河口に流れてきて、土が積もってアサリが死んでしまった」
「俺は、違う職種でまた頑張っていくことができたけど、アサリ漁で食べている人たちはそれ以外に仕事経営ができることがないわけだから、、ちょっと心が痛いよね、本当はしてほしくなかったけど」
今週、熊本県産の天然ハマグリが、風評被害を受けました。出荷した2030kgのうち1930kgが返品されました。300万円近い被害が出たそうです。それついてもコメントしています。
「風評被害で買われなくなるのは恐ろしいよね」「作っていたものが返品されたら、今までかかったお金、燃料代や人件費もかかっているし、収穫したけどお金に反映されないのは本当に酷な話だよね、、悔しいだろうな」
熊本県産のアサリは存在しないのか
インタビューを受けていた元・熊本県産アサリ漁師の方がいう通り、もし九州豪雨で「熊本県産のアサリ」は死んでしまったとしたら、もう全滅したのでしょうか。
だとしたら、2020年に熊本県でとれたアサリ21トンは、そのときの九州豪雨での生き残りということになりますね。
やはり、トレーサビリティを義務化してほしいですね。そうすれば、どんな流れを辿って自分の手元に届いた商品なのか分かります。
※トレーサビリティとは、その製品が①いつ、②どこで、③だれによって作られたのか、を明らかにすべく、原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡可能な状態にすることです。
なぜ熊本県産アサリは取れなくなったのか
2022年2月15日のニュースです。《参照》RKK熊本放送
なぜ産地偽装するほど熊本県産のアサリが減ってしまった原因の1つが「ナルトビエイ」です。エイの腹を裂くと、大量のアサリが出てきます。
川口漁協の福島勉 参事によると「ナルトビエイは、自分の体重の40%くらいアサリを食べる」ということです。
※「参事」とは、協同組合などの職員の職名です。
海水温が上がる5月~11月頃まで、有明海全体には10~20万匹のナルトビエイが来て、アサリなどの二枚貝を捕食します。有明海でナルトビエイが確認され始めたのは2000年ごろからです。
ナルトビレイは、最大で幅150cm、体重50㎏にも達する大型のエイだそうです。
もし体重50㎏のナルトビレイが20万匹も来て、アサリだけを食べた場合で考えてみましょう。
エイ1匹 | 1匹が食べるアサリの量 | 20万匹が食べるアサリの量 |
50(kg) | 50×0.4(40%)=20㎏ | 20×20万(匹)=400万kg |
計算上、200万kgのアサリが食べられてしまうことになります。
2020年の1年間で収穫された熊本県産アサリは、21トンです。それに比べるとかなり少量に感じますが、まだ小さいアサリが親貝になった時には、重さも増えているでしょう。その赤ちゃんアサリが食べられてしまうので単純に200㎏の影響とはいえません。
熊本市の川口漁協は、2002年から毎年エイの駆除を行っています。2021年は、熊本県全体で約56トンのナルトビエイが駆除されました。
「段々減ってきよるけん駆除事業の成果が出ていると思います」(福島参事)
アサリの保護
エイの食害から天然アサリを守るため、川口漁協は海に産卵する親貝の確保にも力を入れています。
砂を入れた袋を下げておけば、網目から海中に浮遊する天然の稚貝が中に入り、エイに食べられることなく親貝に育って産卵します。ただ、放っておけば袋が砂の中に埋まって貝が窒息してしまうため、数か月おきのメンテナンスが必要です。
労力とコストがかかる上すぐにはアサリは増えないので、地道な活動が続きます。
「有明海全体で協力しながら取り組んでいく必要があると思います。昔のように豊漁に取れてほしいですね」(福島参事)
原因は地球温暖化?
ナルトビエイが有明海に出現するようになった地球温暖化が影響しているとみられています。
「水温が高くなる時期も今早いでしょう。で、下がるのが遅いけんですね、こちらの方にいる期間が長い。ナルトビエイが」(福島参事)
地球温暖化によって、有明海の環境が変化したとしたら、このままエイの駆除とアサリの保護をしても現状より状態が良くなるとは思えませんね。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(2013~2014年)によると、陸域と海上を合わせた世界平均地上気温は、1880年から2012年の期間に0.85℃上昇しました。このまま上昇し続けると、生態系がおかしくなって、取り返しがつかないことにならないかと心配です。
《参照》環境省:地球温暖化の現状
販売されているアサリの産地調査
熊本県産のアサリは出荷停止ということですが、それは本当なのでしょうか。都内の下記3店舗で販売されているアサリをチェックしてきました。
- デパ地下
- スーパー
- ディスカウントスーパー
また、アサリの産地として熊本県以外だと、愛知県・北海道産があげられています。店頭には、どこ産のどんなアサリが、いくらで売られているのか調査した結果の一覧表からご紹介します。
《あさりの産地・価格調査》
購入店 | 産地 | 状態 | 殻 | 100gあたりの価格 |
① デパ地下 | 北海道産 | 活あさり | 殻付き | 208円 |
② デパ地下 | 愛知県産 | 活あさり | 殻付き | 194円 |
③ デパ地下 | 中国産 | 活あさり | 殻付き | 104円 |
④ デパ地下 | 中国産 | ボイルあさり | 殻付き | 128円 |
⑤ スーパー | 北海道産 | 活あさり | 殻付き | 234円 |
⑥ スーパー | 中国産 | 冷凍あさり | 殻付き | 99円 |
⑦ スーパー | 中国産 | 冷凍あさり | むき身 | 186円(殻なし) |
⑧ ディスカウントスーパー | 中国産 | 活あさり | 殻付き | 99円 |
⑨ ディスカウントスーパー | 中国産 | 冷凍あさり | 殻付き | 79円 |
⑩ ディスカウントスーパー | 中国産 | 冷凍・ボイルあさり | むき身 | 99円(殻なし) |
※殻付きのアサリは、「活あさり」「あさり」などの表現が存在するので、今回はこれらを統一して「活あさり」としました。
実際のところ、明確な使い分けはないようです。「クッキー」より「さくさくクッキー」、「チーズ」より「とろーりチーズ」の方がおいしそうに聞こえるからというのと似ています。
国産アサリは、北海道産アサリを2つ、愛知県産アサリを1つ、見かけました。やはり、熊本県以外で国産アサリが出回っているのは、北海道産と愛知県産というのは、本当でした。
なお、国産アサリの価格は、中国産より高いことが分かります。先ほどご紹介した、1kgあたりのアサリの平均価格を100gあたりにすると次のようになります。
《アサリの平均価格》
- 東京都中央卸売市場:649円/1kg → 64.9円/100g
- 中国産アサリ:約 188円/1kg → 18.8円/100g
都内のデパ地下やスーパーやを調査したところ、北海道産アサリは、208円/100g、234円/100g、愛知県産は194円/100gでした。実際に販売されている価格は、割り出されている平均価格より高い結果となりました。
アサリの種類の違いや、少量で購入することによって多少値段が上がってしまうという事情もあるのかもれません。または現在、熊本県産アサリが販売できない事情により、アサリの値段が高騰した結果かもしれません。
また、冷凍になれば価格は下がる傾向になることも分かりました。なお、殻がない「むき身アサリ」と「殻付きアサリ」の価格を比べるのは、難しいですね。
ただ、高ければ良い・悪いではなく、用途によって使い分けるのがおすすめです。クラムチャウダーなどスープに入れるときはむき身の方が便利ですし、パエリアやパスタお味噌汁に入れるときは殻付きの方が見た目も楽しめて良いかもしれませんね。
一覧表にしたアサリの実物写真は次の通りです。
【デパ地下】のアサリ
今回調査したタイミングに、デパ地下で販売されていたアサリはこちらです。
【スーパー】のアサリ
今回調査したタイミングに、スーパーで販売されていたアサリはこちらです。
【ディスカウントスーパー】のアサリ
今回調査したタイミングに、ディスカウントスーパーで販売されていたアサリはこちらです。
ディスカウントスーパーなので、1㎏というビックサイズで販売されています。それも安さを維持する理由ですね。
2022/3:アサリの国産表示を厳格化
農林水産省と消費者庁は2022年3月18日、輸入アサリを熊本産と偽って販売したとみられる産地偽装問題を受け、産地表示のルールを厳格化すると発表しました。国産表示できる日本国内での育成期間は1年半以上と定め、輸入に関する書類の保管も求める方針です。
今回の改定で、この半分以上の期間、日本で育成した場合に限って国産表示できるようにします。海や浜にまいただけでは国内産と表示できなくなります。国内の海で短期間保管する「蓄養」は生育期間に含めないことになります。
金子原二郎農相は18日の閣議後の記者会見で「食品表示の適正化を通じて消費者の信頼を確保できるよう、関係機関と連携し適正に対応していく」と述べています。
《参考》日本経済新聞
2022/4/6:熊本県が条例案を発表
熊本県は4月6日、アサリ産地偽装の根絶や天然アサリの資源回復を目的とする条例案を発表しました。条例案は「熊本県産あさりを守り育てる条例」(仮称)で、県は6月定例議会に提案し、9月の全面施行を予定している。
漁協や流通業者に取引記録の作成と3年間の保存を義務付け、違反すれば業者名を公表するそうです。県内では偽装問題を受けて2月から県産アサリの出荷が停止されていたが、12日に再開する予定です。
蓄養場貸し出しをやめた海域を「資源特別回復区域」に指定
蓄養場が不正の温床になっていたとみられることから、条例案では漁協が業者への蓄養場貸し出しをやめた海域を「資源特別回復区域」に指定します。天然アサリの資源回復に向けた取り組みを県が支援していくそうです。
蓄養場をめぐっては熊本県が3月、蓄養場を持つ県内4漁協に対し、7月末までに事実上の蓄養場廃止を誓約させ、その後に蓄養が判明すれば県産アサリ販路拡大関連の補助金などを返還させると表明していた。
漁協側にとっては蓄養場の貸し出しが収入源でもあったことから、県は条例との「アメとムチ」で蓄養場の一掃を図るそうです。
取引記録の作成と3年間の保存を義務化
条例案では、熊本県産アサリを取り扱う漁協や流通・販売業者に取引記録の作成と3年間の保存を義務付けた。これまでは流通のどの過程で産地が書き換えられたか確認するのが難しかったが、記録によるチェックが可能になります。
アサリの産地表示ルールについては、消費者庁と農林水産省も3月に厳格化を発表しています。輸入アサリを国産表示できるのは輸入時期や生育期間が分かる書類を保存し、1年半以上養殖した場合に限定するとしています。
輸入したアサリを1年半以上養殖するのは容易ではなく、国産表示への切り替えは事実上、不可能になります。
アサリ漁と出荷を約2カ月ぶりに再開
こうした状況から、熊本県は産地偽装対策が一定程度整ったとして、7日に問題発覚後初めてとなる県産アサリの入札会を開催します。
12日には、2月8日から停止していた県内漁業者のアサリ漁と出荷を約2カ月ぶりに再開すると発表した。14日にも県が認証した「販売協力店」で、当面は熊本県内だけで販売します。
4月6日に記者会見した蒲島郁夫知事は「出荷予定の漁場ではDNA検査を実施し、外国産アサリが混入していないことを確認した。今後も偽装アサリの根絶と熊本ブランドの信頼回復に向け全力で取り組む」と話ししました。
《参照》毎日新聞
【まとめ】熊本県産アサリ産地偽装の問題
熊本県産の食材に対してもイメージダウンが避けられないほどのインパクトのある事件でした。
産地偽装などしていない企業は、大変気の毒ですが、熊本県産の信用を取り戻すには、かなりの時間を要するでしょう。「風評被害で困っている」と話題になった後の、2月9日にふるさと納税品のアサリの日付改ざんが明らかになりました。
これは、もう取り返しがつかない状態といえます。なぜこのようなことが起きたのか、どのように対策していくのかを説明し、改善を行い、時間をかけて消費者の失った信用を取り戻すしかなさそうです。
こういう偽装が起きるから「国産はいいものだ。外国産はこわい。」という意識を高めてしまうようにも感じます。
アサリなどの海産物にはじまり、色々な食材がありますが、外国産のメリットもあって、国内産の食材の方が農薬などが使用されている食材もあります。しかし、今回の「中国産アサリ」に関しては、プロメトリンの危険があるので認識しておく必要があります。
そもそも、日本産・外国産で括って「安全・危険」を議論することが難しいです。その土地の環境や、養殖されている企業、農家さんによっても違います。
どちらにせよ、偽装はあってはならないことです。消費者の正しい判断の妨げになることは控えていただきたいです。
なお、「アサリの畜養量」の統計数が分かりないだとか、そもそもの管理の甘さも消費者への疑問・不安を膨らませる要因だと感じます。どこ産の、どのくらいの量のアサリが、どのくらいの期間畜養され、どのタイミングで出荷されたとか、素人でも思いつくような管理もできていないのは問題と感じます。
熊本県産と表示された中国産のアサリを購入した人は、価格が高いのにも関わらずそのアサリを選択して購入したことになります。そのような消費者への裏切り行為です。管理基準や管理体制、ルールをもっと厳格にしてほしいものです。