あなたは、健康長寿の食生活が気になりませんか?
- 動物性タンパク質が老化の原因?
- ヴィーガンやベジタリアンの人は長生き?
- 代謝は低い方がいい?
健康で元気に歳を重ねていきたいものですよね。それには、健康長寿の方々の食生活や生活習慣から学んでいけば良いのです。
わたしは、ファスティング(断食)や食事指導をしている栄養士です。本記事では、「死ぬまで若々しく健康に生きる 老けない食事」という本を要約して紹介していきます。
興味深い内容が多いので、数記事にわたってまとめています。ぜひ最後までお付き合いいただき、若々しく健康に生きる方法をマスターしていきましょう。
まずは①からご覧いただくと理解が深まります。
《参考》【本の要約①】死ぬまで若々しく健康に生きる 老けない食事:老化と腸内細菌
迷信① 地中海食は長寿をもたらす
世界5大長寿地域に住む人々には、上手な年の取り方について学ぶことが多いです。
- イタリア・サルデーニャ島のオリアストラ県
- 日本の沖縄
- カルフォルニア州ロマリンダ
- コスタリカのニコヤ半島
- ギリシャのイカリア島
リストにはありませんが、パプアニューギニアのキタバ島や、イタリアのナポリ南にある小さな町アッチャロリなど、住民が長生きで有名な地域もあります。
しかし、こうした地域の特徴や共通点については、多くの場合、一部だけが真実であったり、まったくの迷信であったりします。
マイナス要素
長寿地域の2つが地中海の島々にあることに気づき、穀物を含む地中海式の食事をするようアドバイスしている健康の達人をよく見かけます。
実は、穀物をたくさん食べているから健康で長生きなのではなく、「穀物をたくさん食べているにも関わらず健康で長生きしている」のです。
穀物を主食しているイタリア人の関節炎の発症率は全体的に高く、とくにサルディーニャ人は、免疫疾患の発症率が高いと言われています。
こうした長寿の地域であっても、腸内微生物叢は穀物食に適応していません。
各地域の食生活
共通する栄養パターンもありますが、実際には長寿地域の人々の食生活はバラバラです。詳しく紹介していきます。
ロマリンダの人々
ロマリンダのセブンスデー・アドベンチスト教会の信徒は、大豆たんぱく製の代替肉という形でナッツや大豆をたくさん食べています。
大豆のレクチンは加圧調理すれば破壊できるので、大豆を加圧調理した代替肉はとても賢い調理法です。
セブンスデー・アドベンチスト教会の信徒の大半は、ベジタリアンかヴィーガンなので、彼らの食事は脂質が50%を占めています。
《参考》【ヴィーガン、ベジタリアン、マクロビの違い】食事方法や思想・種類
ニコヤ半島の人々
ニコヤ半島に住む人々の主食は、コーントルティーヤ、豆、米です。
サルデーニャ人
長寿を誇るサルデーニャ人は、海岸から離れた山間部に住んでいるため、魚はほとんど食べません。
ヤギのチーズやヤギの肉、ソバと小麦で作ったパン、膨大な量のオリーブオイルを食べています。
イタリア島の人々
イタリア島の人々は、たっぷりのオリーブオイルはもちろん、ローズマリーなどのハーブやスベリヒユという雑草をよく食べ、朝食時にはワインを飲むのが習慣になっています。
沖縄の人々
50年以上前の伝統的な沖縄の食事では、脂質はあまり摂られません。摂る脂質ははたいてい豚のラードです。
豆腐や米もほとんど食べられませんでした。米も、玄米でなく白米です。
食事の約85%は炭水化物である紫イモで占められていました。
キタバ島の人々
キタバ島の人々はタバコが大好きで、タロイモ(炭水化物)とココナッツ(飽和脂肪酸)を大量に食べます。
ところが、彼らはとても痩せています。心臓発作や脳卒中を起こす例も少なく、医療を受けずに90歳まで生きることも珍しくありません。
アッチャロリの人々
アッチャロリの人々は、アンチョビと大量のローズマリーとオリーブオイルを摂ります。
また、たくさんのワインを飲み、パンやパスタは食べないが、レンズ豆は大好きだそうです。
共通する「炭水化物」
まずは、キタバ島と沖縄、2つの地域でたくさん食べられている炭水化物の種類を見てみます。
紫イモやタロイモは、「レジスタントスターチ」と呼ばれるデンプンの一種で、摂取すると通常の炭水化物と異なり、すぐにブドウ糖に分解されるのではなく、ほとんどそのままの状態で小腸を通過します。
《参考》【レジスタントスターチとは】効果と温度(バナナ・さつまいもなど)
ブドウ糖に分解されるということは、エネルギーとして燃焼されるか、脂肪として蓄積されます。
これに含まれる糖分子はしっかり結合していてヒトの酵素では分解できないので、レジスタント(抵抗力)の名がつけられました。
そのため、レジスタントスターチを大量に食べても血糖値やインスリン値が上がることはありません。これは、2型糖尿病や肥満、加齢に伴う炎症を避けるために大事なことです。
また、レジスタントスターチは通常のデンプンよりも満腹感が長く続きます。
腸内細菌を増やす
レジスタントスターチを摂取すると腸内細菌が増殖し、短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸、酪酸を大量に産生します。短鎖脂肪酸は、ミトコンドリアや腸壁を覆う超細胞の燃料になります。
このように、レジスタントスターチは腸内細菌の数を増やし、消化と栄養の吸収を促し、腸内を覆う重要な粘液層を育む腸内細菌を成長させます。
キタバ島と沖縄の人々が、通常の加齢に伴う多くの病気と無縁でいられるのは酪酸が増加したおかげで腸内環境が良好に保たれているからだと考えられています。
長寿の人々の共通点
最も重要なポイントは「何を食べるか」ではなく「何を食べないか」です。長寿者たちが食べないものとは、大量の動物性タンパク質です。
ランダム試験の結果
8週間のランダム化比較試験では、被験者は30%のカロリー制限食を摂ると言う前提で、2つのグループに分けれらました。
一方のグループは、カロリーの30%を動物性タンパク質で摂取し、もう一方のグループはカロリーの15%だけを動物性タンパク質で摂取しました。
両グループともほぼ同じ量(6.8kg)の体重減少が見られました。
ところが、血液検査では顕著な違いが見られました。動物性タンパク質の摂取量が少ないグループ(15%)は、多いグループ(30%)に比べて、炎症マーカーの数値が低かったのです。
タンパク質の総摂取量と、魚を除く動物性タンパク質の摂取量の両方が、炎症の増加と相関していました。
長寿の食生活
改めて、長寿の人々の食生活を振り返ってみます。
サルデーニャ人は、日曜日や特別な日にだけ肉を食べます。沖縄の人々は、少量の豚肉を含む植物中心の食事をしていました。
ロマリンダのセブンスデー・アドベンチスト教会の信徒は、ほとんどがベジタリアンで、ヴィーガンも多いです。
ニコヤ島の人々は、週に1度しか肉を食べません。イカリア島では、一家族が1年に1頭だけ動物を殺し、その肉を数か月かけて少しづつ食べています。
また、キタバ島とアッチャロリの人々は、タンパク質の摂取量がとても少なく、そのほとんどが魚です。
アメリカ人の食生活
2018年には、平均的なアメリカ人が100kgの赤身肉と鶏肉を食べたという事実と比較してみます。
これは歴史上かつてないほど多い数字です。また、これには卵、牛乳、チーズなどの動物性タンパク質は含まれていません。
わたしたちがこれまで以上に急速に高齢化しているのも頷けます。動物性タンパク質を摂取すると老化します。これは迷信②につながります。
迷信② 動物性タンパク質は長寿に必須
長寿の人々の食生活を知れば、ほとんどのアメリカ人が必要以上のタンパク質、とくに動物性タンパク質を摂取していると理解できるでしょう。
しかし、誤解しないでほしいのは、体を動かすにも、筋肉の衰えを防ぐにも、適切な量のタンパク質は必要です。
だが、これまでに思われてきたタンパク質の量と、実際に必要な量には大きな隔たりがあります。
わたしからの補足です。タンパク質不足には動物性タンパク質を活用して、なんならプロテインで補うべきだとい考えの先生もいます。以下の記事でまとめています。
《参考》【本の要約:後編】医学的に内臓脂肪を落とす方法(1年で14キロ痩せた医師が教える)
実際、どちらが正しいのかわたしにも判断がつきません。
腸活や免疫力などを重要視している先生は動物性タンパク質は摂りすぎない方が良いという考えが多い気がします。一方、ダイエットや栄養不足などに注目している先生は動物性タンパク質を積極的に摂取するという考えが多いように思います。
では、本の要約に話を戻します。
「ヴィーガン」が長生き
多くの欧米社会では動物性タンパク質が過剰に摂取され、血糖値の上昇や肥満、寿命の低下を招いています。
ロマリンダ大学の博士が長寿のセブンスデー・アドベンチスト教会の信徒を対象とした研究を行い、ならに他の6つの研究のメタ分析を行いました。
その結果、なんと以下の順位で長生きだと明らかになりました。
- 動物性食品を一切食べないヴィーガン
- 卵の摂取量を制限して乳製品を一切食べないベジタリアン
- 乳製品を食べるベジタリアン
- たまに鶏肉や魚を食べるベジタリアン
ベジタリアンにも種類がたくさんあります。ベジタリアンを突き詰めていくとヴィーガンになります。詳しくは以下の記事でご確認ください。
《参考》【ヴィーガン、ベジタリアン、マクロビの違い】食事方法や思想・種類
残念ながら、動物性タンパク質は健康寿命を延ばすために必要な食材ではありません。動物性タンパク質を完全に摂取しない人々は、とりわけ長寿になっています。
「アルツハイマー病」の発症率
さらに、アルツハイマー病の発症リスクと肉類の摂取量との直接的な関連性が認められました。
日本人が伝統的な日本食から動物性タンパク質をきわめて多く含む西洋食へと移行したとき、1985年には1%だったアルツハイマー病の発症率が、2008年には7%に上昇しました。
動物性タンパク質が老化の原因に
わたしたちは、「成長期」と「退行期」を繰り返す年周期で生きています。
現在、わたしたちの多くは食糧が豊富なため、常に「成長期」サイクルになってしまいます。細胞が「退行期なしで成長しろ」と命令されると、がん細胞が増殖する下地が作られてしまいます。
「成長期」に最も必要なアミノ酸である、メチオニン、システイン、イソロイシンは、とくに動物性タンパク質に含まれています。これらのアミノ酸は植物性タンパク質には微量しか含まれていません。
つまり、動物性タンパク質を避けて植物性タンパク質を好きなだけ食べていれば、体に「退行期」と勘違いさせることができます。
カロリー制限よりもヴィーガン
カロリー制限が長寿につながるのは、動物性タンパク質の摂取量が自然と抑えられるからだという証拠もあります。
セントルイス大学の研究者は、カロリー制限協会の会員を対象に、インスリン様成長因子(IGF-1)レベルを調べました。
インスリン様成長因子(IGF-1)は、細胞に成長しろという信号を送るホルモンです。
会員たちは通常よりカロリーを20~30%制限しています。摂取カロリーがかなり少ないにも関わらず、彼らのIGF-1レベルは通常の食事をしている人たちとほぼ同じでした。
次にカロリー制限をしていないヴィーガンを募り、彼らのIGF-1レベルを測定した所、カロリー制限協会の会員たちよりもはるかに低いことが分かりました。
さらに、数人のカロリー制限協会の会員に、総カロリーの摂取量を変えずに動物性タンパク質の摂取量をゼロにしたら、彼らのIGF-1レベルはヴィーガンと同じレベルまでに下がったそうです。
また、マウスやラットを用いた研究では、動物性タンパク質に最も多く含まれるアミノ酸を避けることでカロリー制限に匹敵するくらい寿命を延ばせることが明確に示されました。
タンパク源
ここまで話を聞いてきても動物性タンパク質がないとタンパク質不足になるのが心配な方もいるでしょう。良質なタンパク源はたくさんありますので安心してください。
とくに多くのナッツ類や野菜からは体に必要な栄養をすべて摂取できる上に、体に必要のない危険なアミノ酸は含まれていません。
2018年、65歳以上の男性を対象とした研究では、タンパク質の摂取量を増やしても健康面では無意味だと判明しました。
タンパク質の必要量
タンパク質の必要量は思っているよりずっと少なく、体重1kgあたり0.37gのタンパク質で十分ということです。以下を目安にしてみてください。
体重 | 必要なタンパク質 |
45kg | 約16.7g |
50kg | 約18.5g |
55kg | 約20.4g |
60kg | 約22.2g |
65kg | 約24.1g |
70kg | 約25.9g |
75kg | 約27.8g |
80kg | 約29.6g |
また、人体は自分の体から出るタンパク質を毎日20gほど再利用しています。
粘液にはタンパク質が含まれていますし、腸細胞は主にタンパク質で構成されています。その腸細胞が毎日剥がれ落ちるたびにそのタンパク質は消化・再吸収されます。効率的で、環境にやさしい仕組みです。
なので、腸内微生物叢がタンパク質を消化・吸収している限り、タンパク質が不足することはほとんどありません。
ステーキや卵を完全に断つ気になれない人でもおご安心ください。動物性タンパク質を控えめにするだけでもメリットがあります。
月に1度、5日間だけ、1日約900kcalのヴィーガン断食を行うだけで、従来のカロリー制限食を1か月つづけた場合と同じ結果が得られるそうです。
わたしからの意見としては、毎月5日間もヴィーガン断食をするのであれば、3か月に1回の3日断食(準備食2日+回復食2日)をした方が、効果も大きく、取り組みやすいのではと思います。
ご自身の生活習慣に合った方法があると思いますので、気になる方はご相談ください。
迷信③「成長ホルモン」で若さと活力
長寿の人々の多くは、平均よりもはるかに身長が低いという特徴があります。
さらに女性は、男性に比べて平均して約7年も長生きすることが知られています。女性は男性よりも平均12.7cmも背が低いです。
相関関係は因果関係を証明するものではありませんが、亡くなった1700人を分析したところ、同じ身長の男女は、同じ平均寿命であることが分かりました。
プードルの例
ここでプードルの例をご紹介します。スタンダードプードルは、通常10歳くらいまで生きられますが、その一方でミニチュアプードルやヨークシャテリアは20歳くらいまで生きられます。
ミニチュアプードルとスタンダードプードルは、全く同じ遺伝子を持ちます。ミニチュアプードルは長い年月をかけて小さくなるように交配されただけだからです。
犬が小さければ必要なカロリーも少なくて済みます。同じ遺伝子の犬が長生きできたのは、消費カロリーが少なく、実質的にカロリー制限がされていたからなのでしょうか。一見、奇妙に思えるこの考えは重要です。
平均身長が伸びた
人間の話に戻ります。19世紀末から20世紀初頭の間に、男女の平均身長は10cm上昇しました。
子どもがたくさん野菜を食べる社会では、大人になってからの身長が低く、繁殖する時期も遅い傾向があります。
しかし、そのような人々が動物性食品や精製された穀物を多く摂取するようになると、成長率や身長が伸びるのです。
たとえば、日本では洋食が導入された後、わずか15年で身長が大幅に伸びました。
1960年代以降、インドやシンガポールの人々も加工された西洋料理を食べるようになると身長が大幅に伸び、冠動脈疾患の発症率も慎重に比例して上昇しています。
身長と病気・寿命の関係
常に成長し続けることの大きな欠点は、思春期の早期化、とくに初潮の時期を早めます。1900年の時点では、月経を開始する平均年齢は18歳でしたが、今ではもっと若く、中には8歳で性的に成熟する少女もいます。
さらに、この早期化により、乳がんや心臓病、糖尿病、そしてあらゆる原因による死亡リスクを高めます。
また、アメリカの戦争経験者、亡くなったプロ野球選手、フランスの男女を対象とした研究では、いずれも身長と寿命の間に逆相関があることが示されています。
ある研究では、思春期の急激な成長が、15年後のがんリスクを80%増加させたといいます。
アメリカ人の研究
とある研究では、アメリカの健康な男性医師2万2000人以上の身長によって5つのカテゴリーに分けて、12年後に追跡調査を行いました。
その結果、医師の年齢を調整しても、身長とがんの発症には有意な関係があることが分かっています。
細胞の成長とは、身長を伸ばすのに役立つ細胞も、がんになる細胞も含まれているので、このことは辻褄が合うのです。
インスリン様成長因子(IGF-1)
ロンゴ博士の研究によると、インスリン様成長因子(IGF-1)を作ることができない低身長の人々はがんや糖尿病と無縁であることが分かっています。
さらに、IGF-1受容体をブロックしたマウスをつくると、通常のマウスよりも40%も長生きします。
がんにならない長寿を目指すのであれば、IGF-1を低いレベルに保つ必要があることが分かります。
糖質や動物性タンパク質を摂取することでIGF-1レベルが上昇するので、全体的に摂取を控えるのがいいということになります。
とくに糖質や動物性タンパク質を減らす時期は、成長を促進するだけでなく、代謝率を下げるためにも重要なのです。
「代謝率は高い方がいい」と思っていませんでしたか?次の章で解説します。
迷信④ 代謝がいいのは健康の証
代謝が高いというのはカロリーの消費が早いということではなく、燃料を燃やすために必要以上に働く、効率の悪い代謝状態ということです。
ストレスがかかると、細胞はミトコンドリアの新生を促すために燃費が良くなります。つまり、代謝率が高いと、逆に燃費が悪くなります。
あなたの体内の分譲マンションは、できるだけ燃費のいい状態を望みます。そのため、必要に応じて細胞を加速させ、腸内の粘液に含まれるタンパク質から死んだ細胞の破片をゴミとして蓄積させるのではく、オートファジーなど効率的にリサイクルします。
インスリン様成長因子(IGF-1)を刺激することに加えて、動物性タンパク質を摂取すると急激に老化するのは、代謝に多くのエネルギーを必要とするためです。
日常的に肉を大量に摂取していると、代謝が落ちる暇がないのです。肉食動物が1日の大半を睡眠に費やすのは、エネルギーを節約して高い代謝を低下させようとしているのです。
肉食のイヌやネコは本当によく寝ます。一方で、キリンはあまり寝ていません。葉を食べるキリンは、高効率・低公害エンジンを備えたような車のような動物です。
長寿は代謝率に反比例
1900年代の初頭に、研究者たちは初めて「長寿は代謝率に反比例する」という考えを提唱しました。
エネルギー消費量が多いと、すぐに燃え尽きてしますのです。一方、代謝率が低いと「ゆっくり着実に生きる」ことになります。
最も健康な百寿者の基礎体温は、35~35.5度だと判明しました。体は無駄に代謝を上げて熱を発生させるよりも、エネルギーを節約したいと考えているのです。
高い代謝率により発生した熱は、あなたを急速に老化させます。これは「メイラード反応」と呼ばれる化学的なプロセスで、ブドウ糖分子がアミノ酸と結合すると、AGEs(終末糖化産物)と呼ばれる化合物が合成されるためです。
タンパク質と糖を一緒に焼くということです。ステーキを鉄板で焼いたときにできるカリっとした表面はAGEsで構成されています。
火力が強いほど、肉の表面はカリっと仕上がります。これと同じことが脳や心臓、そして肌でも起きているのです。年を重ねるごとに肌に現れる茶色いシミや、老化の兆候は、メイラード反応の結果です。
「長寿パラドックスプログラム」を始めた患者の多くが、この色素沈着がなくなったと喜んでいるそうです。
戦略的に代謝率を下げて、熱を下げることが、こうした反応を抑えます。それが、老化の速度を下げるための最善の方法です。
このメイラード反応を起こすには、タンパク質や糖質、熱が必要なので、タンパク質や糖質の摂取を控えることが、重要です。
老化スピードを知るには
あなたの老化スピードは医療機関のヘモグロビンA1c(HbA1c)と呼ばれる検査でしることができます。
糖尿病患者が定期的に受けるこの検査は、赤血球中のヘモグロビンと糖が結びついた糖化タンパク質の量を測定するものです。
HbA1c値が、5.0%以下の人は順調です。5.6%を超えていたら長生き競争では大変なことになります。
迷信⑤ 鉄分を摂れば血液が強くなる
体内に蓄積された鉄分は、老化現象の促進に大きな影響を及ぼします。
デンマークとスウェーデンの研究者が、献血を頻繁に行うと鉄分濃度が危険な域にまで低下するかどうかを、数百万人の献血者を対象に調査しました。
年齢やその他の健康状態を加味したうえで、献血回数の多い人は、少ない人に比べて有意に長生きであることが分かりました。
これは、献血によって体内の鉄分量が減少したためです。
女性が男性よりも長生きする理由として、女性は月経によって毎月かなりの量の鉄分を排出しているからだとも言われています。
研究の結果
動物による研究の結果を紹介します。
センチュウによる研究
鉄の働きを調べた別の研究では、生後4日目のセンチュウに鉄を与えたところ、急速に成長し、すぐに生後15日目くらいの大きさになりました。
些細なことに思えるかもしれませんが、センチュウの寿命はわずか4週間ほどなのです。つまり、鉄を与えたことでセンチュウの寿命は約3分の1に短縮されたのです。
鉄がわたしたちを老化させるのは、ミトコンドリアの機能を阻害するからです。
マウスによる研究
ワイオミング大学で行われた2018年の研究では、研究者たちがマウスのミトコンドリアを調べたところ、体内の鉄量が多いマウスは、ミトコンドリア内の酸素が不足していることが分かりました。
また、脳の神経細胞が失われるハンチントン病のマウスを調べたところ、そのマウスのミトコンドリアにも鉄が過剰に蓄積されていました。ミトコンドリアの機能が低下したために、ニューロン(神経細胞)が死んでしまったのです。
ミトコンドリアが酸素にアクセスできず、エネルギーを産生できなければ細胞は死んでしまいます。
ラットの研究
ブラジルの研究者が、鉄分濃度が高く、記憶障害の兆候があるラットに酪酸ナトリウムを全身に1回注射したところ、記憶力が回復したそうです。
ミトコンドリアへの鉄の蓄積は、通信回路が乗っ取られしまっていたのかもしれません。そして腸内微生物叢がより幸せで鉄による老化の影響から身を守ってくれることを意味するのでしょう。
ヒトを対象にした研究
ヒトを対象にした研究では加齢に伴い血液中の鉄量が増えると、アルツハイマー病の発症リスクが高まることが分かっています。
また、アルツハイマー病ではない人でも、脳機能イメージング技術によって、認知機能障害と鉄分方に関連したフェロトーシスという細胞死も新たに認識されつつあります。
さらに、パーキーソン病患者が献血によって鉄分濃度を減らしたところ、症状が劇的改善したという結果が出ています。
鉄分は驚くほど老化を加速させます。動物性タンパク質には鉄分が大量に含まれています。
本当に鉄は足りているのか?
少し、わたしの見解をお伝えします。
鉄は老化を促進するので摂りすぎないようにと書かれている一方で、鉄不足でない日本人を探す方が難しいということを唱えている先生います。「1年で14キロ痩せた医師が教える 医学的に内臓脂肪を落とす方法」という本にはそのように書かれていました。
正直、どちらの情報を信じれば良いのだろうと思っていまいます。どちらも医師として人々の健康を守っていく専門家です。その専門家ですら意見が分かれているのわたしには判断しかねます。
わたしの見解としては意見が割れてしまった理由は2つあると考えています。
- 研究が進んで最新情報が更新されたため
- 海外の事情と、日本人では事情が違うため
まず①に関してです。今、要約している「死ぬまで若々しく健康に生きる 老けない食事」は2022年4月25日に第一刷されました。
「1年で14キロ痩せた医師が教える 医学的に内臓脂肪を落とす方法」については、2021年5月21日に第一刷されました。
時期だけでみると、鉄は摂りすぎない方がいいという情報が正しいようにも思えます。ただ、摂りすぎは良くないと言っているだけで、不足して良いとは言っていませんね。
続いて②に関してです。「1年で14キロ痩せた医師が教える 医学的に内臓脂肪を落とす方法」という本には、あくまで日本人、とくに女性は足りていないという論調だったので、それはそれで正しいようにも思えます。
それが正しいと思える理由は別記事でご確認ください。
《参考》【鉄不足になる理由】症状・おすすめのサプリメント(キレート鉄)
信頼できるものから、怪しいものまで、様々な健康情報が出回っていますので、自分自身で見極めていく力も必要かもしれません。なにか不明点や不安があればご相談ください。
少し話がそれてしまったので、本の要約に戻っていきます。
迷信⑥ 動物性の脂肪は悪者ではない
パレオダイエットやケトジェニックダイエットの界隈で信じられているバターなどの動物性脂肪(飽和脂肪酸)が体に良いと言う迷信を否定しています。
こういった脂肪が体に悪いという考えは、何十年も前に学者のアンセル・キーズが提唱したものです。彼が有名になったのは7か国の人々の食生活と心臓病の発症率を分析した「7か国研究」です。
キーズ博士はこの調査結果を世界保健機関(WHO)に提出し、脂肪(主に飽和脂肪酸)が心臓病の主な原因であるという一般的な考えが定着しました。
マクガバン委員会は、キーズのデータを元に飽和脂肪酸を悪者にした新しい食品規格を初めて作成しました。こうして、低脂肪食品ブームが始まりました。
食品メーカーは脂肪を取り除き、おいしい食品を作るために「砂糖」を加えるようになりました。
そして、トウモロコシや小麦、大豆の生産に補助金を出す政策を打ち出し、健康的な食生活として全粒穀物の炭水化物を食べることを奨励しました。
これが、今日、わたしたちが目の当たりにしている健康と寿命の悪循環の始まりでした。思い起こせば、このとき歴史上初めてアメリカ人の長寿が3年連続で短くなったのです。
キーズ博士のデータは間違い?
過去数十年の間、キーズ博士は自説に都合のいいデータだけを選んで使ったという疑惑で徹底的に批判されました。しかし、著者はそれは不当な扱いだと考えているそうです。
キーズ博士への反発から、多くの人が動物性食品に含まれる飽和脂肪酸を見直し、パレオダイエットやケトジェニックダイエットという食事法が流行したという経緯があります。
彼のデータをより詳細に分析した結果、キーズ博士は有利なデータを選んでいたのではなく、他国のデータを追加してもなお、動物性食品と摂取と心臓病との間には明確な関係があることが分かっています。
動物性と植物性の脂肪
キーズ博士が間違っていた点のひとつは、動物性脂肪と植物性脂肪を区別していなかったことです。
その後の研究で、植物性脂肪は心臓病と負の相関があり、動物性脂肪は正の相関があることが分かりました。
ただし、彼は主に動物から得られる飽和脂肪酸の方が、オリーブやナッツ、アボカドなどの植物から得られる一価不飽和脂肪酸よりも長寿に悪いと明言していました。
オリーブオイルを摂っていた
引退後のキーズ博士は、南イタリアに移住し、世界で最も多くの百寿者を排出し、オリーブオイルを大量に消費するアッチャロリの隣町に住みました。
著者は、彼の元家政婦に会う機会があり、反脂肪主義だったキーズ博士がオリーブオイルを好んでとっていたことを聞くことができたそうです。
キーズ博士は高齢になっても元気で、102歳の誕生日を目前にして亡くなり、栄養学者の中では最高齢の記録を打ち立てました。悲しいことに、長寿の専門家たちが残した長寿記録は平凡なものが多いので、キーズ博士は快挙です。
長寿に有効な脂質源
長寿を叶えるためにふさわしい脂質源は、すべて植物由来です。
オリーブオイルに含まれるポリフェノールこそが源です。ポリフェノールのような植物由来の化合物が、細胞のリサイクルプログラムであるオートファジーを刺激します。
オートファジーを促す信号を細胞に送るのは、腸内微生物叢です。彼らは、オリーブオイルに含まれるポリフェノールが大好きです。
著者は、1週間に1リットルのオリーブオイルを摂取するようにしているそうです。
また、ナッツ類は一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸を豊富に含み、心臓病を予防する効果が高いと言われています。
《参考》【オメガ3脂肪酸とは】多く含む食品・その効果・オメガ6との比較
それはナッツに含まれる食物繊維(プレバイオティクスを含む)が、腸内環境を整えるのに適していて、酪酸産生菌が増えるからです。
とくにピスタチオやクルミは効果が高いです。また、アーモンドを食べる場合は皮をむいた方が良いです。
迷信⑦「牛乳」は体に良い
先ほど紹介した長寿の人々は、肉をほとんど食べないだけではなく、乳製品も牛ではなくヤギやヒツジ由来のものを摂取していたことお気づきでしょうか。
これは偶然なのでしょうか。健康に長生きするための要因の一つであることは間違いありません。
世界で最も多く飼育されている牛種はホルスタインであり、この牛乳には問題があるタンパク質が含まれています。
今から約2000年前に、北欧の牛に突然変異が起こり、牛乳に含まれるタンパク質の種類が膵臓のインスリンをだす細胞に結合して炎症を引き起こす可能性が出てきました。これが1型糖尿病の主な原因だとも考えられています。
牛乳を飲むと胃腸の調子が悪くなったり、粘液が過剰に分泌されたりする人が多いのですが、これはレクチンなどの異種タンパク質に対する体の主要な防御機能のひとつです。
「乳製品」
従来型の家畜やその乳製品には、抗生物質やラウンドアップが含まれており、腸内環境を悪化させています。
ラウンドアップとは、1970年にモンサント社が開発した除草剤です。 そのラウンドアップの主成分である「グリホサート」での健康問題については以下でご覧いただけます。
《参考》【世界と逆行】除草剤グリホサートの危険性とは?基準値や人体の影響
いくつかの例外を除いて、乳製品の摂取は、必ずしも長生きや健康にはつながりません。なので、乳製品を食べるときは、長寿の人々に習って、牛ではなくヤギやヒツジの乳から作られた製品を選びましょう。
ヤギやヒツジは、水牛は突然変異の影響を受けていないため、それらの乳には健康にいいβ-カゼインA2が含まれています。
「成長ホルモン」投与
牛乳にはインスリン様成長因子(IGF-1)が多く含まれています。子牛を早く成長させるために成長ホルモンが投与されているためです。
人間の母乳に含まれるIGF-1の量はとても少ないです。これは、人間がゆっくり成長するように設計されているためです。
先ほど述べたように、急速な成長は問題があります。つまり、牛乳は体にいいものではないのです。
ヴィーガンやベジタリアンになりたくないと思っている方も安心してください。長寿パラドックスプログラムを実践すれば大丈夫です。実践方法は別記事でご紹介しています。
さいごに
長寿の人々が食べている食生活をそのまますべて真似すれば良いのではありません。たとえば、穀物をたくさん食べた方がいいのというのは間違いです。
穀物を主食しているイタリア人の関節炎の発症率は全体的に高く、とくにサルディーニャ人は、免疫疾患の発症率が高いと言われています。
そんな穀物を多く食べているにも関わらず長寿な理由は、オリーブオイルなどそれらの悪影響を帳消しにできるような食材も多く摂っているからです。
また、長寿のポイントは「何を食べるか」ではなく「何を食べないか」です。老化につながる動物性タンパク質(お肉など)をあまり食べません。
気づかないうちに多くの食品添加物を摂取していることもあります。その現実と影響についてもぜひ知っていただけると良いでしょう。
《参考》【本の要約①】食品の裏側2 実態編:ハンバーグ弁当に使われる食品添加物
健康情報は日々新しいものが出てきます。そもそも間違っている情報も多くありますので、注意が必要です。せっかく体のために食べているものが、実は悪影響だとしたらどうでしょう。
自分や家族の健康のためにも、できる限り正しい知識を持つことが大切だと感じますね。
「要約③ 健康に関する7つの迷信」をまとめてきましたが、続きは「要約④がんと心臓病」になります。ぜひご覧ください。
《参考》【本の要約④】死ぬまで若々しく健康に生きる 老けない食事:がんと心臓病
また、以下の記事では、要約①~⑨までの概要をまとめています。もくじ代わりにご覧いただき、気になる項目から読んでいただくのもおすすめです。