あなたは「トランス脂肪酸」をご存知ですか?
- トランス脂肪酸とは?
- どんな食品に含まれているの?
- 世界や日本での規制
わたしは、健康志向な栄養士です。本記事では、脂質の中でも不飽和脂肪酸に分類される「トランス脂肪酸」について詳しくご説明してきます。
「トランス脂肪酸」とは
トランス脂肪酸は「不飽和脂肪酸」の一種です。牛や羊などの「天然由来」のものと、油脂の加工・精製する工程でできる「人工的」なものがあります。
脂肪酸は大きく分けて2種類あります。二重結合がない脂肪酸を「飽和脂肪酸」、二重結合がある脂肪酸を「不飽和脂肪酸」といいます。
「不飽和脂肪酸」は一価不飽和脂肪酸(オメガ9)、多価不飽和脂肪酸(オメガ3、オメガ6)などに分類されます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
《参考》【オメガ3脂肪酸とは】多く含む食品・その効果・オメガ6との比較
「トランス脂肪酸」の作られ方
通常の不飽和脂肪酸は、構造的に「シス型」という分子構造を持ちます。しかし、牛や羊などの動物は、一度飲みこんだ食物を胃から口に戻し、再び咀嚼して飲み込むので、胃の中の微生物により「トランス型」という分子構造を持つトランス脂肪酸がつくられます。
つまり、牛や羊の肉や牛乳などの乳製品にも、天然に作られたトランス脂肪酸が微量ながら含まれています。
人工的な作られ方
人工的に作られるトランス脂肪酸は「水素添加」という方法で液体状の植物油を固形状に変えることによって生成されます。
マーガリンやファットスプレット、ショートニングや、これらを使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子や揚げ物などにもトランス脂肪酸が含まれています。
「トランス脂肪酸」の歴史
液体の植物油を半固形の状態にする「水素添加」という加工技術は1890年後半に開発されたそうです。
20世紀に入り、バター不足も重なり、アメリカなどで大豆油を水素添加することによりバターの安価な代替品としてマーガリンが製造されていきました。
一般家庭に冷蔵庫が普及したこともマーガリンの消費に拍車をかけました。冷蔵庫に保管したバターは、かたく固まりすぎていて使いにくいのに対して、液体と固体の中間のような柔らかさのマーガリンはパンに塗りやすく、使い勝手がよく便利でした。
さらに「バターやラードなどの動物性油脂よりも、植物油由来のマーガリンやショートニングの方が健康によい」という主張がまん延し、食卓におなじみの食品となっていきました。
マーガリンとバターの違い関してはこちらの記事でもご紹介しています。
《参考》【マーガリンとは】バターとの違い、トランス脂肪酸が体に悪い?その理由
「トランス脂肪酸」の影響
次のような病気を引き起こす要因になることがあります。
- LDLコレステロール(悪玉)を増やし、HDLコレステロール(善玉)を減らす
- 炎症マーカー(C-反応性タンパク質、IL6)上昇
- 糖尿病、血中インスリン濃度上昇
- 乳がん
- アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息など)
- 排卵障害による不妊、胎児喪失(流産・死産)
- 胆石
- 脳卒中
① LDLコレステロール(悪玉)を増やし、HDLコレステロール(善玉)を減らすことで、動脈硬化や心筋梗塞などのリスクを高めます。
LDLコレステロールの正常範囲は140mg/dl未満です。140mg/dl以上の場合は高LDLコレステロール血症になります。
食物繊維や青魚などEPA/DHAを多く含む食事でコレステロールを抑えられます。また、LDLコレステロールの酸化を防ぐためには、ビタミンCやビタミンE、β-カロテン、ポリフェノールなどの抗酸化作用の強い栄養素を多く含む食品をとるようにすることが効果的です。
② 炎症マーカー(C-反応性タンパク質、IL6)とは慢性炎症の指標です。これは、あらゆる生活習慣病の主要因です。
「心臓病」との関連性
ハーバード大学公衆衛生大学院の授業で栄養疫学研究の第一人者であるウォルター・ウィレット博士(1945~)は、「食生活の中にトランス脂肪酸を持ち込んだことは、過去100年間で食品業界がやらかした最大の悪事である」と発言したそうです。
さらにウィレット博士は、1990年代に入ると、トランス脂肪酸と心臓病の関連性を指摘、トランス脂肪酸がアメリカ国内で年間2万人にもおよぶ心臓病の死亡要因だと試算しました。
これは、世界中でトランス脂肪酸の食品表示義務導入の引き金ともなっていったのです。
2003年になるとWHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)が、心疾患リスクを高める食品としてトランス脂肪酸をリストに入れ、1日の摂取量を総カロリーの1%(約2g)未満にするようにという目標を掲げました。
「トランス脂肪酸」を含む食品
トランス脂肪酸の作られ方でもご紹介した通り、大きく分けて2つのパターンがあります。
「自然由来のもの」と「人工的なもの」です。それぞれ詳しくご紹介していきます。
「自然由来」のトランス脂肪酸
自然由来のトランス脂肪酸が含まれる食品は下記の通りです。
牛肉 | ステーキ、ハンバーグ、すきやき、牛丼、チンジャオロース、プルコギ、しぐれ煮、ハヤシライスなど |
羊肉 | ジンギスカン、ラムチョップ、ラムカレー、ラム串焼き、ラム煮込みなど |
乳製品 | 牛乳、チーズ、ヨーグルト、バター、クリーム、アイスクリーム、練乳など |
お肉や乳製品は、トランス脂肪酸が含まれますし、消化吸収にもパワーを使いますので、食べ過ぎには注意したいですね。
「人工的」なトランス脂肪酸
人工的に作られたトランス脂肪酸は、マーガリンやショートニング、ファッドスプレッド、バターに多く含まれます。
つまり、それらを使用した食品に多く含まれます。
調味調 | マーガリン、ショートニング、バター、マヨネーズなど |
お菓子 | 菓子パン、パン、ホイップクリーム、ポテトチップス、スナック菓子、アイスクリーム、ケーキ、クッキー、パイ、クラッカーなど |
揚げ物・天ぷら全般 | フライドポテト、ドーナツ、からあげ、フライドチキン、メンチカツ、トンカツ、アメリカドッグ、天丼など |
インスタント食品 | カップラーメン、インスタントラーメン、カップスープ、カレーやシチューのルーなど |
冷凍食品・レトルト食品 | からあげ、コロッケ、メンチカツ、ハンバーグ、ミートボール、餃子、ピザ、魚のフライ、エビフライなど |
ホイップクリームに関しては、動物性脂肪のみを使用した生クリームではなく、植物性脂肪を使用したホイップクリームの方が特に該当します。
ただ、動物性脂肪ということは乳製品が由来しているので生クリームにもトランス脂肪酸は含まれていると言えます。
《参考》【生クリーム・ホイップクリームとは】その違いと、カロリー・味・用途
また、ファストフード全般もトランス脂肪酸を含むメニューが多く存在します。飲食店で食事をする際は、どんな種類の油がどれくらいの量使われて作られたものか明らかではないことも多く、一概には言えませんが注意が必要です。
他にも、コーヒーに添えられているコーヒーフレッシュにもトランス脂肪酸が多く含まれていると言われています。
しかし、最近のメロディアンのコーヒーフレッシュを確認したら、あの小さいパッケージのフタ部分に「トランス脂肪酸ゼロ」と記載してありました。
トランス脂肪酸が身体に悪いという情報が広まったので、そのような対応をしたのでしょうか。そちらの記事はこちらです。
《参考》【マーガリンとは】バターとの違い、トランス脂肪酸が体に悪い?その理由
「ショートニング」とは
ショートニングという名称は、脆さ・砕けやすさを意味するショーネス(shortness)に由来しています。クッキーやパイなどのサクサクとした食感をつくります。
植物油や魚油を原料として製造され、マーガリンと比べると水分をほとんど含まないという違いがあります。
19世紀にアメリカでラードの代替品として製造されたと言われています。
「トランス脂肪酸」世界の取り組み
2018年5月にWHO(世界保健機関)は、2023年までにトランス脂肪酸排除を目指すという声明を出しました。
現在、WHOではトランス脂肪酸への国ごとの規制などの取り組みをランキング分けし、最上位と評価した国を「ベストプラクティストランス脂肪酸政策」とカテゴライズしました。
該当すると評価された国は以下の通りです。
アメリカ合衆国、オーストリア、カナダ、チリ、デンマーク、グアム、ハンガリー、アイスランド、ラトビア、リトアニア、北マリアナ諸島、ノルウェー。サウジアラビア、スロベニア、南アフリカ、タイ |
以下の国では食品中のトランス脂肪酸濃度の表示を義務付けています。
韓国、中国、香港 |
アメリカの規制
- 2006年:ニューヨーク市の飲食店で規制がスタート
- 2008年:カルフォルニア州で、初の州レベルでの使用禁止
- 2013年:アメリカ国内での事実上禁止の発表
都市から州へ、州から国へとトランス脂肪酸の規制は拡大していきました。
そして2015年6月17日に「部分水素添加油脂の食品への使用規制」を公表し、2018年6月18日からトランス脂肪酸を利用して食品製造を行うことが禁止されました。
日本の規制
日本では現在、トランス脂肪酸の規制がありません。
「日本人の食事摂取基準」という報告書が5年ごとに出されていて、最新情報は2020年度版になりますので、記載されている内容の一部をご紹介します。
「危険性」
トランス脂肪酸は、飽和脂肪酸よりも LDL コレステロール/HDL コレステロール比を大きく上昇させることが、介入試験をまとめたメタ・アナリシスで示されている 50)。コホート研究をまとめたメタ・アナリシスでは、工業由来トランス脂肪酸の最大摂取群は最小摂取群に比較して冠動脈疾患発症の相対危険が 1.3 倍であったと報告されている。
基本的には、トランス脂肪酸が身体に悪影響を及ぼすということが記載されています。
世界保健機関(WHO)を始め、アメリカなど幾つかの国では、トランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満に留めることを推奨している 57,58)。したがって、あくまでも参考値ではあるものの、日本人においてもトランス脂肪酸の摂取量は1% エネルギー未満に留めることが望ましく、1% エネルギー未満でもできるだけ低く留めることが望ましいと考えられる。
また、WHOやアメリカなど世界各国でもトランス脂肪酸の摂取量を制限することを推奨しているので、それらの情報も参考の上、日本でもできるだけ摂取を控えるべきとしています。
「摂取量」
食品安全委員会は「食品に含まれるトランス脂肪酸」(報告書)で、国民健康・栄養調査(平成15〜19 年)のデータを解析し、全対象者における平均値、中央値ともに 0.3% エネルギーと報告している。
日本人成人の平均摂取量は、トランス脂肪酸で 0.3% エネルギー程度、飽和脂肪酸の 7%エネルギー程度である)を考慮すると、トランス脂肪酸の影響は、飽和脂肪酸の影響の 12 分の1程度〔=(0.3×2)/(7×1)〕となる。
日本人のトランス脂肪酸の平均摂取量は、総エネルギー摂取量の0.3%程度であることが分かっています。
つまり、WHOの推奨する「総エネルギー摂取量の1%未満」であり、規定量の約3分の1程度ということになります。
「摂取制限」
トランス脂肪酸が冠動脈疾患の明らかな危険因子の一つであるものの、その摂取量及びその健康への影響が飽和脂肪酸に比べてかなり小さいと考えられること、日本人における摂取量の実態がいまだ十分には進んでいないことなどを勘案して、目標量は策定しないこととした。
日本人の大多数は、トランス脂肪酸に関する WHO の目標を下回っており、通常の食生活ではトランス脂肪酸の摂取による健康への影響は小さいと考えられているものの、様々な努力によって(飽和脂肪酸に置き換えるのではなく)平均摂取量を更に少なくし、また、多量摂取者の割合を更に少なくするための具体的な対策が望まれる。
したがって、トランス脂肪酸の危険性はあるものの、トランス脂肪酸の摂取量が日本ではそれほど高くないことから、特に規制は行わないこととしたそうです。
だからと言って、摂りすぎてしまえば身体に悪いことは明らかで、少しでも摂取を減らすことは、健康を保つ要素になるといえるでしょう。
規制がないからと言って安全なのではなく、危険な摂取量になっていないので、規制をしていないだけということです。
《参考》厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)報告書
【まとめ】トランス脂肪酸
トランス脂肪酸が身体に悪影響を及ぼすことは明らかです。WHOは「総エネルギー摂取量の1%未満」に抑えることを推奨していますが、危険性は未知数と言えます。
年齢や体格、体質などによっても影響は違うでしょうし、他の食品と一緒に摂取した際の複合的な要素を考慮すると、まだまだ不明な点もあります。
過剰に気にしてしまうと、何も鍋られなくなってしまい疲れますが、多くは摂取しないように気を付けると良いでしょう。
トランス脂肪酸が多く含まれる食品としてマーガリンが有名ですが、最近では、トランス脂肪酸の含有量をかなり抑えたマーガリンもありますし、気にするほどの危険性はないという説もあります。
《参考》【マーガリンとは】バターとの違い、トランス脂肪酸が体に悪い?その理由
健康・美容に関して、年々と新しい情報が出てきます。ご自身で最新情報をキャッチしながら、自己判断で取り入れていきましょう。
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