【アニマルウェルフェア】AW認証:世界・山梨県の取り組みと現状飼育

皆さんは、アニマルウルフェア(AW)認証という制度をご存知でしょうか。

  • 現状の家畜の飼育方法はどんなもの?
  • アニマルウェルフェア(AW)の認証制度とは?
  • 山梨県の取り組みとは?世界の取り組みは?

栄養士で、日常にオーガニック食品を取り入れているわたしがご紹介させていただきます。

現状の事例:家畜の飼育方法

アニマルウルフェア(AW)認証の前に、まずは現在行われている家畜の飼育方法についてです。皆さんは、牛・豚・ニワトリなどの家畜が、どのような環境で、どのように育てらているのかご存知でしょうか。

色々と調べていくと、恐ろしい事実と感じるかもしれません。なんとも言い難いつらい気持ちになるので、詳しく調べることをためらってしまいます。

しかし、これは目を背けていい問題ではありません。一般的な方法や、事例の一部をご紹介します。

牛の飼育

肉牛になる牛は、100%に近い割合で人工授精で妊娠させられます。自然界であれば動物は自分で繁殖相手を選び、双方の合意のもとに交尾を行います。しかし畜産利用される牛は、自分が望んだ相手のものではない精子を植え付けられ、強制的に妊娠させられます。

なお、法律により「耳標」をつけることが義務付けられており、子牛が初めに経験する肉体的痛みは耳標の取り付けです。通常、麻酔などは行われないため牛は痛がります。早ければ7日以内、遅ければ3か月以上で行われることもあります。

※「耳標」とは、家畜の個体識別のために耳に装着するラベルのこと。

3ヵ月が過ぎると、痛みを与えて牛を制御するために鼻輪(鼻グリ、鼻環とも呼ばれるもの)が取り付けられます。鼻に穴をあける行為なので、当然牛は痛がりますし、出血することもあります。

牛同士の闘争による怪我を防ぐ、人の安全を守るなどの理由で、角が除去されます。日本では、肉牛の59.5%が角を切断されており、79.4%で麻酔が使われていません。麻酔をしてあげて欲しいです。

多くの牛たちは牛舎の中に閉じ込められ運動不足になり、濃厚飼料を与えられ太らされます。他にも、ヒトであれば考えられないようなことが行われています。

下記の参考情報は2015年(平成27年)のものです。

《参考》公益社団法人 畜産技術協会:乳用牛の飼養実態アンケート調査報告書

豚の飼育

子豚は、生後まもなく、去勢・尾の切断・歯の切断が行われます。基本的に麻酔や鎮痛剤などは使用されませんので、子豚たちは痛みで鳴叫ぶそうです。

さらには、去勢されることで、心的外傷性疾患により死亡する子豚もいるそうです。また、処置後に腹膜炎を起こして死亡したり、ストレスから発育や免疫力が落ちる傾向があることも知られています。恐ろしすぎます。

歯の切断は63.6%、尾の切断は81.5%の日本の農家で実施されています。理由は、「過密飼いのストレスからお互いを傷つけあうことを防ぐ」という理由だそうです。

日本では、放牧養豚はほとんど行われておらず、豚の多くは、屠殺されるまでの一生を豚舎のなかで過ごします。外に出たいでしょうね。

自然界では豚が離乳するのは生後3-4ヵ月と言われていますが、産まれて21日くらい経つと、母豚から引き離されて子豚は肥育用の豚舎に移動させられます。母豚に早く次の種付けをするために母子を引き離します。離乳は子豚にとって大きなストレスとなります。

多くの場合、床はスノコかコンクリートで、豚が大好きな穴掘りをすることはできません。まだ産まれたばかりの子豚なのに遊べる遊具もありませんし、無機質な空間で生後6ヵ月ほどまで過ごします。

ニワトリの飼育

わたしは「平飼いたまご」を購入しています。「平飼い」とは、親鶏が鶏舎内を自由に動き回れるようにして飼育する方法です。

自然に近い環境の中で、親鶏たちは自らの足で地面を歩き、飛び回って育つので、余計なストレスを感じることなく育ちます。平飼いたまごの存在を知るまでは、どのようにニワトリが飼育されているか想像をしたことがなかったです。

通常、出回っているリーズナブルなたまごは、ニワトリが狭いゲージに入れられて身動きが取れずに育てられるそうです。

生後0~10日くらいの間に、雛はデビーク(ビークトリミング)されます。つまりくちばしの先を切り取られます。クチバシは複雑に神経が通う機能的な器官で、デビーク時には出血し痛みを伴います。さらに、その後慢性的な痛みを経験すると言われています。かわいそうです。

何段にも積み重なったケージに鶏を詰め込んでいるバタリーケージでは、1羽辺りに与えられる面積はタブレット一つ分ほどしかありません。

産卵を開始して約1年が経過すると、卵質や産卵率が低下します。この時点でと殺される場合もありますが、長期にわたって飼養しようとする場合には、強制換羽がおこなわれます。

強制換羽とは、鶏に2週間程度、絶食などの給餌制限をおこない栄養不足にさせることで、新しい羽を強制的に抜け変わらせることです。

換羽期に羽毛が抜けかわると再び卵を産むようになるという鶏の生態を利用し、生産効率を上げるために行われています。ショック療法ともいえる強制換羽は、通常の鶏飼育時よりも死亡率が高いことが知られています。

しかも1日2回の周期で光を当て、あたかも2日きたように勘違いさせて卵を1日2回うませることもあるそうです。寿命も縮み、病気になりやすく、色んな薬を打たれるそうです。

聞かなかったことにしたいような話が続きましたが、このような事例・事実があるということも頭の片隅においていただければ「アニマルウェルフェア」の理解も深まるでしょう。

アニマルウェルフェア(AW)とは何か

アニマルウェルフェアについては、家畜を快適な環境下で飼養することにより、家畜のストレスや疾病を減らすことが重要であるとしています。

結果として、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながることから、農林水産省としては、アニマルウェルフェアの考え方を踏まえた家畜の飼養管理の普及に努めています。

アニマルウェルフェア(Animal Welfare)とは具体的にいうと、感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、下記のような飼育方法をめざす畜産のあり方です。

  1. ストレスをできる限り少なくする。
  2. 行動要求が満たす。
  3. 健康的な生活ができる。

日本も加盟しており、世界の動物衛生の向上を目的とする政府間機関である国際獣疫事務局(OIE)の勧告において、「アニマルウェルフェアとは、動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義されています。

《参考》農林水産省:アニマルウェルフェアについて

アニマルウェルフェアの考えが生まれた背景

欧州発の考え方で、日本では「動物福祉」や「家畜福祉」と訳されてきました。

1960年代のイギリスでは、工業的な畜産のあり方を批判した、ルース・ハリソン氏の『アニマル・マシーン』が出版され、大きな関心を呼びました。イギリス政府が立ち上げた委員会は、「すべての家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を」という基準を提唱します。

こうした動きを受け、家畜の劣悪な飼育環境を改善させ、ウェルフェア(満たされて生きる状態)を確立するために、次の「5つの自由」が定められました。

  1. 空腹と渇きからの自由:新鮮な水とエサの提供
  2. 不快からの自由:衛生的で快適な環境、休息箇所
  3. 痛みや傷、病気からの自由:病気を予防し、すぐに直す
  4. 正常な行動を発現する自由:生態・欲求を妨げない環境
  5. 恐怖や苦悩からの自由:畜の丁寧な扱い、声掛け

今では、「5つの自由」は家畜のみならず、人間の飼育下にあるペットや実験動物など、あらゆる動物のウェルフェアの基本として世界中で認められています。

《参考》一般社団法人 アニマルウェルフェア畜産協会

アニマルウェルフェア畜産認証:ロゴマーク

ぶた、にわとり、うしをやさしく包み込む、かわいらしいマークです。

アニマルウェルフェア(AW)認証ロゴマーク

「アニマルウェルフェア認証食品」認証制度

「5つの自由」を守り、動物・管理・施設の各ベースの評価項目を80%以上クリアした農場を認証します。その農場で育った家畜から生産された畜産食品には、認証マークを付けて販売できる仕組みです。

アニマルウェルフェア畜産協会では、市民の間に定着している欧州の制度や、畜産技術協会(東京)の基準などを下地に独自の認証システムを創りました。

2016年夏に、まず乳牛から運用を始めています。一般社団法人 アニマルウェルフェア畜産協会は、こうした認証制度を豚や鶏などにも広げ、アニマルウェルフェア畜産の普及に努めています。



【山梨県】アニマルウェルフェア(AW)への取り組み

山梨県は、乳牛や豚など畜産家畜の福祉向上を目指す「アニマルウェルフェア(AW)」の認証制度を、年内をめどに策定し運用を始めます。

AW認証は世界的にみても取り組みが始まったばかりで、国内の自治体では初めてです。日本は、わりと新しい制度へ取り組みに遅れがちな傾向にあるように思いますが、山梨県は積極的な取り組みですね。

先行することで、山梨の畜産品のブランド価値を高め、とくに倫理性を重視し環境保全や社会貢献を意識する「エシカル消費者」へ強く訴求しています。エシカルとは「倫理的な」という意味で、エシカル消費とは、人や地球環境・社会・地域に配慮した消費ということです。

《参考記事》【簡単にエシカルの意味とは】消費・ファッション・スタバの取り組み

2021/10:現時点での方針

現時点で対象とする家畜は、乳牛、肉牛、養豚、採卵鶏、肉用鶏。飼育面積や飼育環境、体の状態、運動など家畜ごとに10項目を設定しています。

飼育面積では肉牛が、1頭当たり5.0平方メートル以上、養豚は同1.1平方メートル、採卵鶏では1羽で0.15平方メートルとしました。極端に痩せたり、太ったりした個体が全体の20%以上いないかや、給水状況、飼育場のアンモニア濃度基準なども設定します。

肉用牛では、除角や去勢の際に麻酔を使用するなど牛に苦痛を与えない方法をとっているかも盛り込まれています。

認証は2段階

2段階の認証取得を設けられます。

  • エフォート:AW認証の講習会参加や取り組み計画を表明することで取得できる。
  • アチーブメント:上位認証で、認証基準に対し一定の達成がなされている場合に取得できる。

経済的な合理性もある

コスト面ではAWは一見不利みえるが、山梨県は経済合理性は十分にあるとみているようです。

AW認証に沿った畜産を進めれば、家畜が病気にかかりにくくなり結果的に生産性も上がり、乳牛も長生きして一生の乳量は増えてくると考えているそうです。

なお、鳥インフルエンザや家畜伝染病「豚コレラ」によって、一斉に数万規模の殺処分を余儀なくされることを思い起こせば、AWの優位性を想像しやすいとのことです。

経済的に考えても、倫理的に考えても、ぜひ取り組みを検討すべきですね。こういった想いは消費者のわたしたちにも届くと思います。

やまなしブランド

山梨県では今年から、農業分野の地球温暖化対策「4パーミル・イニシアチブ」の認証制度でも全国的に先行しています。草木や剪定(せんてい)した果樹の枝などを炭化させ土壌内にとどめておくことで、大気中への二酸化炭素排出を削減させる取り組みです。

※剪定(せんてい)とは、樹木の枝を切り、形を整えたり、風通しを良くすることです。

「4パーミルイニシアチブ」とは

4パーミルイニシアチブとは、2015年に行われた気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)の際にフランス政府主導で始まりました。

「もしも全世界の土壌中に存在する炭素の量を毎年4パーミル(4/1000)ずつ増やすことができたら、大気CO2の増加量をゼロに抑えることができる」という計算に基づき、土壌への炭素貯留を増やす活動を推進しようとする国際的な取り組みのことを言います。

2020年12月の時点で、日本を含む566の国と国際機関が参加し、日本の地方自治体では山梨県が初めての4パーミルイニシアチブに取り組む県となっています。

山梨県では全国に先駆けて推進している4パーミルイニシアチブの取り組みとして、堆肥や省耕起など従来からある土壌炭素貯留の方法に加えて、山梨県の主要農作物である果樹栽培の際に発生する選定枝を炭化させたものを土壌に貯留することや、草生栽培による炭素の蓄積に着目し研究や現地実証を行っています。

今回のAW認証も、4パーミル認証同様に、SDGsに向けた取り組みの付加価値を受け入れることができるエシカル消費者を意識しています。そういったアプローチによって農畜産物のブランド化や高付加価値化を図り「やまなしブランド」の差別化を進める戦略です。

《参考記事》【SDGsとは何か】17の目標一覧とその意味・課題を簡単に解説

《参考記事》【簡単にエシカルの意味とは】消費・ファッション・スタバの取り組み

世界での取り組み

ヨーロッパなどでは一般の消費者の認知が高くなったことで、消費者が店やレストランに対応を求めたり、多少高くてもAW対応の商品を優先的に購入する消費者が増えていきたそうです。

AW対応のものが店に出回るようになることで、それまで知らなかった消費者も知るようになり、好循環が回ってどんどん広がっていったのです。今では各国でAWに配慮した畜産動物の認証制度があり、消費者も認証ラベルを見て肉や卵の商品を選択しています。

スウェーデンでは、バタリーケージと放牧の鶏の比較写真を見た消費者たちが先に変わり、そこから徐々にAW先進国になっていきました。

「WATT Global Media」が毎年行っている「Top Egg Company 調査」2021年度はアメリカの鶏卵生産者トップ37社を調査しました。

この調査によると、鶏卵生産業は2020年に、390万羽分のケージ鶏舎をケージフリー(平飼い)に変換した。今年2021年には、420万羽分をケージフリーに変換する予定だということも示しました。

比べて日本は、AWがあまりにも消費者に知られていないため、行政も産業界も、多くの場合は現状維持という状態になっているようです。そうすることで、消費者が知るきっかけも少ない、という悪循環に陥っているとみられます。

最終的に購入するのは、消費者です。消費者の選択が、世の中を動かします。これこそ、鶏が先か卵が先かという話になりますが、そのような商品を手に取る人が増えれば、そのような販売も増えますよね。

【まとめ】アニマルウェルフェア(AW)

まだまだ、アニマルウェルフェア(AW)という認証制度があるという認知度が低いです。もっともっと知られて欲しいです。

常に、AW認証の商品を手に取ってほしいということではなく、まずはこのような事実と取り組みがあること知って、選択肢のひとつに加えて欲しいと思います。

また、前半にお話した現状の家畜の飼育方法で、考えたくもないような恐ろしい事例もあることを忘れてはならないと考えます。この記事には記載していないような恐ろしいことも色々と言われています。関連する動画もアップされてますが、よりインパクトがあります。

参考:飼育にこだわるお店もある

たとえば、2016年11月 食品産業新聞社主催の「第46回食品産業技術功労賞」マーケティング部門で受賞したお肉があります。安心・安全と美味しさに加えて、その生産、販売における秀逸さという新たな側面の評価も得ることになりました。

豊かな自然が広がる農場で、飼育するのにふさわしい産地と生産者を国内外から選びぬいています。

また、過密飼育によるストレスがないように、飼育環境にも配慮しています。病気にかからないよう農場内を常に清潔に保つなど、徹底した衛生管理を行っています。

豚肉は驚くほど甘みがあり美味しいです。鶏肉も噛み応えがあり、味が濃いです。こちらのお肉は、高級店をこえるレベルの素材です。

わたしは幼いころから、このお肉で豚しゃぶを食べていたので、はじめて外でリーズナブルなしゃぶしゃぶを食べたときに「お肉ってこんなに味がしなかったかな?」と不思議に感じました。

《公式サイト》SL Creations:『安心・美味しさの「その先」へ』食べごろを食卓にお届け

他にも色々なショップがあると思いますが、もし良ければチェックしてみてください。

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